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作:碧(Aoi)
【 リバイバル 】
この日、遊園地内は騒然としていた。
何の告知もなく、いきなり始められたゲリラライブ。
「ねぇ…あの歌声ってさ…」
「似てるよね。もう亡くなって一年かぁ…
彼を偲んでコピーバンド演奏でもしてるのかなぁ?」
「それでもいいよ。彼らの曲聴けるなら。とにかく行ってみよ!」
カフェ☆ベガで、アイスコーヒーを飲みながら休憩していた女性客二人は、カフェを飛び出し、この遊園地内にある『星屑のステージ』へと向かった。
アトラクションの長い行列に並ぶ女性客三人。
「ねぇ、行こうよ!」
「でも、折角1時間も並んだのに…」
「私達、何度もライブに通ったじゃない。これ、本当に彼の声のような気がする」
「まさか…そんな訳…」
否定しながらも、彼女らは顔を見合わせると列を離れ、ステージ方面へと走り出した。
「えっ、……嘘…」
「…信じられない…」
ステージ上で演奏している四人の姿を見て、女性客達は息を呑み、立ち竦む。
彼女達だけではない。
他にも、音を聴いてここに駆け付けた人達は、一様に同じ反応を示していた。
ギター 駿
ベース 涼平
ドラム 順太
そして、ボーカルの奏詞
ステージ上に立っていたのは、確かに『Moon Cat』のメンバーだった。
遊園地の奥の方から、そして入口方面から、更に遊園地に隣接された学園の制服を着た生徒達も、続々とこのステージに集まってきて、いつの間にか立見スペースは満員電車内のような状態になった。
『Moon Cat』のメンバーは、丁度一年前のこの日、車で移動中に交通事故に遭い、
ベースの涼平、ドラムの順太は軽症だったものの、
ギターの駿は腕と指を骨折、
ボーカルの奏詞は、命を落とした。
当時、世間は騒然となり、マスコミは揃ってこう報じた。
「唯一無二の素晴らしい歌声を持つ彼を失くしたことは、音楽界の大きな損失。
またギタリストも、腕と指の骨折で再起不能の状態。
バンドの存続は難しいだろう」
そして彼らは、事実上、解散の状態に追い込まれてしまったのだった。
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