向日葵くんは聞こえない。

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向日葵くんは聞こえない。

『僕は耳が聞こえません』 スケッチブックに太い文字で書かれた言葉にわたしはハッとする。 夢の中の彼も黙って微笑んでいるだけだった。 それは耳が聞こえなかったからなのかも。 『だから、このスケッチブックでみんなと 交流したいと思います。よろしくね』 スケッチブックの言葉にみんながざわめいた。 「じゃあ、水上は……お、松崎の横が空いてるな そこに座りなさい」 なんたる僥倖! 水上くんと隣になれるなんて! 「よろしくね!ひまわ……水上くん!」 にっこり笑うと水上くんも笑い返してくれた。         ◆◆◆◆◆◆ それから、水上くんとわたしはすぐに仲良くなった。 「水上くん!昨日のテレビ見た?」 わたしは手話で会話する。 水上くんのために図書館で本を借りて勉強したのだ。 『うん、見たよ』 水上くんが頷き手話をした。 「あれ、超面白くなかった!?特に吉川哲朗が海に落ちるところ!」 『僕もそこ、爆笑しちゃった。面白かったよね』 「吉川哲朗の落ち方ウケるよね」 夢みたいだ。こうして二人で話すことができてるなんて。もういつ死んでもいい! 「お二人さん、お取り込み中悪いけど、もう3時間目始まってるよ」 柚月の声に先生の方を見ると額に青筋を浮かべてにっこりしていた。 怖っ 「あ、やば」 「水上くん、松崎さん、仲がいいのはいいことだけど 今は授業中よ〜」 「す、すみません」 水上くんも『すみません』と書かれたスケッチブックを見せている。 「罰として、松崎さんに教科書八十九ページの三行目を読んでもらいます。」 「えぇー」 「えーじゃないの、ほら、読みなさい」 わたしは教科書を手に文章を読み始める。 読みおわると先生は「よくできました」と にっこりした。 水上くんを見るとなぜだか申し訳なさそうな 顔をしている。 「どうしたの?」 『僕が松崎さんの代わりに読めれば良かったのに……。ごめんね』 「気にすることないよ〜!わたしが最初に話しかけたから悪いのわたしだし。しかも今日は漢字全部読めたんだよ!すごくない?」 彼はポカンとした後おかしそうに笑った。 「ちょっとーなんで笑ってんのー」 『松崎さんはポジティブだなって思って』 「まぁいちいち考えてウジウジしてるよりポジティブに考えた方が気が楽になるからね」 笑顔を見せると水上くんは優しく微笑んだ。 それに思わずドキッとした。 『松崎さんのそういうところ、僕好きだな』 !! 好きだなという単語が頭の中でリフレインする。 いや、あれはわたしのポジティブなとこが好きって 言ったのであって深い意味はない! そう自分に言い聞かせ、書き遅れていた ノートをとる。 「陽香、どうしたの?耳が赤いよ」 柚月が不思議そうに聞いてくる。 「な、なんでもない!」 わたしは耳を押さえた。 「ま、いいけど」 柚月がニヤリと笑う。 わたしは真っ赤になっているであろう顔に 手をやった。
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