夏祭り

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夏祭り

水上くんはわたしの幼馴染のアオくんに よく似ていた。 だから水上くんが転校してきた日、すごく驚いた。 夢の中の向日葵くんとアオくんによく似ていたから。 共通点もある。 アオくんも耳が聞こえなかった。 だけど一つだけ違うことがある。 アオくんは明るくて無邪気だったけど 水上くんは大人しかった。 だからわたしはアオくんは水上くんとは別人だと信じて疑わなかったんだ。 ……あの出来事までは。          ◆◆◆◆◆◆ 「水上くんっお待たせっ」 わたしは水上くんを覗きこむ。 『わっ、松崎さんっ』 水上くんが驚いたように体を後ろに仰け反らせた。 「あはっ、そんなに驚かなくてもー。 ねぇ今日わたし可愛い?」 手話で伝えると彼はわたしの浴衣と顔を見て真っ赤になった。 ふふふ、意識しちゃってかわいい。 お母さんのお下がりの花火柄の浴衣に、 髪は編み込みでサイドでお団子にしている。 ちょっとだけメイクもした。 『可愛い』 その言葉を意味する手話をする彼に逆に今度はこっちが赤くなる。 「そ、そっか!良かった」 わたしは照れ臭さを紛らわすため たこ焼きの屋台を指差した。 「たこ焼き食べよーよ!」 彼はにっこり笑って頷く。 それから、金魚すくいをしたり、射的をしたりして わたしたちは楽しんだ。 「まさか、こんな大きなテディベアをもらっちゃうなんてねー」 『僕も当たると思ってなかったから驚いたよ』 「ありがとねっ!大事にする」 にっこり笑うと彼は頬を赤くした。 「ねぇ、そこのお二人さん」 後ろから声がして振り返ると刃物を持った葉山くん がそこにいた。 「は、葉山くん?」 どうしたんだろう。包丁なんか持って。 「死ね」 葉山くんが水上くんに突進する。 いやっ。 「やめてーーーー!!!!!」 わたしは彼と葉山くんの間に割って入った。 「まちゅざきしゃん?!?!」 包丁がお腹に沈む。 全てがスローモーションに見えた。 誰かの叫び声。 青ざめた水上くん。 倒れるわたしを水上くんが受け止める。 と同時に熱い痛み。 「痛いっ……」 あぁ、わたし刺されたんだ。 水上くん、そんなことしたら服が血で汚れちゃうよ。 意識が朦朧とする。 ぼやける視界に 「はるちゃん!」 とわたしの名を呼ぶアオくんの顔が映る。 おかしいな。 今ここにいるのは水上くんで アオくんじゃないのに。 どうして、そんなふうに呼ぶの? それを最後にわたしは意識を絶った。
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