記憶

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記憶

目覚めると、わたしは向日葵畑にいた。 「待ってよ、アオくん!」 幼いわたしが通り抜けていく。 アオくんは振り向き意地悪そうな笑みを浮かべた。 まるで、ここまでおいでと言っているかのように。 「アオくんの意地悪っ!」 アオくんがまた走り出したからわたしも走り出す。 「あっ!」 石につまづいて転んでしまった。 「う、うわぁぁぁぁんっ!」 アオくんは立ち止まってわたしの方を振り向いた。 そして、泣いてるわたしを見た瞬間慌て出してポケットから桔梗が刺繍されたハンカチを取り出し わたしの頬に当てた。 『泣かないで、はるちゃん』 アオくんは優しいな。 微笑ましい気持ちで見ていると、 アオくんがわたしの方を見た。 わたしは慌てて踵を返した。 その後、アオくんは隣町に引っ越してしまう。 そう思うとなんだか切ない気持ちになった。 『少女よ、無くした記憶を取り戻したいか?』 無くした記憶?そんなの無いよ。 突然頭の中に響いた声に驚きながら答える。 『はて、どうだろうか。では、 この映像を見せてやろう』 場面が切り替わり、わたしは雨の中倒れている高校生の近くに立っていた。 「ちょっと、大丈夫?!」 声を掛けるけど反応がない。 ……あれ?わたしに似てる? 近くには青ざめた様子でどこかに電話している アオくん。 その瞬間雷が落ちたような衝撃が走った。 そうだ、わたし、死んだんだ。 アオくんが車に轢かれそうになって、わたしがアオくんを庇って……。 「そっか、死んでたんだわたし。」 そして、アオくんが 水上くんであることも思い出した。 水上くんが転校してきた日 『アオくん!?』 驚くわたしに水上くんは 『そうだよ、はるちゃんまた会えて嬉しいよ』 制服に刺繍された水上葵という文字にわたしは 「えっ!」と声を上げる。 『アオくんじゃなくてホントは葵なの?!』 『あぁそうだよ?』 くすくす笑うアオくん。 そうだよ、水上くんはアオくんなんだ。 早く目覚めなきゃ 早く目覚めて、アオくんと話がしたい。 わたしは、ギュッと目を瞑った。          ◆◆◆◆◆◆ 目が覚めると白い天井が目に入った。 「はるちゃう!」 水上くん、いやアオくんが抱きついてきた。 いきなりのことにおそらく顔が 真っ赤になっているだろう。 体を離したアオくんは泣きそうな顔をしていた。 「ごめんね、心配させちゃって。わたしは大丈夫だから!」 『なんてバカなことをするんだよ!僕のせいでまた はるちゃんを死なせることになった!』 「アオくん。僕のせいなんて言わないで」 その言葉にアオくんはハッとする。 『まさか、はるちゃん、記憶が戻ったの?』 「そうだよ、わたし、死んでるんだねアハハ。」 おちゃらけて言うけど、アオくんの表情は固い。 「教えて、アオくん。なんでわたしは生きてるのか」 アオくんの手を握る。 アオくんはゆっくりと頷いたのだった。
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