水上葵ー葵と陽香ー

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水上葵ー葵と陽香ー

夏の夜、僕はいつも同じ夢を見る。 ひまわり畑の中で微笑む少女。 「ぃみは、だえ?」 君は誰?と僕は告げる。 「わたし?わたしは松崎陽香!よろしくね」 にっこり笑う彼女に胸がドキンとなる。 と、同時に心臓を縛られたかのような痛みを感じた。 松崎陽香 彼女は幼なじみだ。 気づくと僕は泣いていた。 何度夢見たことだろう。 夏の夜、彼女は死んだ。 僕のせいで、彼女は死んだのだ。 耳が聞こえない僕は車に気づかず、横断歩道を渡っていた。彼女は僕を突き飛ばし、車に轢かれて死んだ。 「あんたのせいで陽香は死んだの! 絶対に許さない!!」 泣きながら彼女のお母さんは言った。 それをなだめるお父さんも僕に軽蔑の視線を 向けていた。 僕の耳が聞こえていたらどれほど良かっただろう。 どうか夢、いや幻であってほしいと思った。 「少年よ、過去に戻りたいか」 頭の中にそんな言葉が響く。 なんだ?僕の幻聴か?…… 過去か…… 「戻れうもにょなら戻うぃたいよ」 そう言った瞬間眩い光が僕の視界を遮った。 眩しくて目を開けていられず瞳を閉じる。 瞳を開けると、僕は学校の廊下に立っていた。 「転校生を紹介する。入りなさい。」 事故の二日前の状況に似ている。 いや、戻ったのだあの日に。 彼女を救える。そう思うと涙が溢れてきそうだった。 だけど、僕は、ギュッと歯を食いしばり、 教室に入っていったのだった。
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