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とりあえず互いに注文した酒に口をつける。ウィリアムはそれどころではないのであまり飲めなかったが、目の前の男は喉が渇いていたのか、ビールを勢いよく飲んでいた。
安酒しか売ってないバーだ、騒がしいはずなのに、自分の周りだけ静かなように感じて落ち着かない。
痺れを切らして、ウィリアムから話題を切り出す。
「おい、お前はメアリーって女を知っているのか。あいつは誰なんだ、俺は何故記憶がないんだ?」
矢継ぎ早に尋ねると、男は「まあ落ち着け」といった様子でフライドポテトを差し出した。
読みにくい男だと思いつつ、渋々フライドポテトをつまんだ。そうしないと話が進まなさそうだと感じたからである。
「メアリーは君と一年前から交際していた女性だ」
ドン、と空になったジョッキを勢いよく置いたかと思えば、遂に本題を切り出した男に、食い入るように身を乗り出して話を聞く。
「……交際していたってことは、別れたのか」
「さあ、そこまではわからん。……器量もよく、美女だったらしい。君の友人と会ったことはないようだ。」
いいながら、男は一枚の写真を懐から取り出す。
そこには今まで浮かべたことのない満面の笑みを浮かべたウィリアムと綺麗な女性が、手で仲良くハートを作っていた。
「誰だこれは」
「君だろう」
「そうだけどそうじゃねぇ!俺はこんな腑抜けたツラしたことねぇよ、頭痛くなってきた……」
「何か思いだしたのか」
「そういう痛みじゃねぇよ!」
厚いサングラスのせいで人がよく見えてないのではないか。頭を抱えながらも睨めつけた。
しかし、そんな彼を気にせず男は続ける。
「彼女の本名はミーシャ。変装の名人として裏社会で名が知られている。『閣下』の部下らしい。」
「閣下?」
「君がさっき見た、元地下闘技場にいた若い男だ。僕もあの場にいたが、彼はかなりの危険人物らしい」
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