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極東にある小さなその島では、様々な国籍の人間が、各々自由に暮らしているらしい。面積はさして広くはないその島を囲う鉄製の壁から、巷では「東洋の檻」と言われている。
「彼はそこの現当主だそうだ」
なんとなく、東洋の檻は知っていた。国と認められたいがために、きな臭いことをしているらしいと、地下闘技場の仲間が酒を飲みながら話していたのを何度か聞いたことがある。噂話程度のものだと思っていたがそうではないようだ。
「それで、その閣下の部下が俺と付き合っていたとして、だからなんだっていうんだ」
今ひとつ話が見えてこない。軽く混乱しつつ、問いかける。
「閣下は今、粛清を行っている。前の頭……自分の親を殺して、その部下も殺し回ってる。
おそらくそのための戦力として、『英雄』の君をスカウトしにきたんじゃないか」
英雄、久しぶりにそう呼ばれてウィリアムは顔が強張る。彼にとって、それは賛辞ではないのだ。
ただ、立場がそう呼ばせただけで。
逆の立場ならどう扱われるかなど考えなくてもわかる。
「あっ、気を悪くしたなら済まない。そんなつもりは……」
俯いたウィリアムに、少し上ずった声で男は詫びた。
いや、いい、大丈夫だ。ウィリアムは控えめにそう答え、ずっと気になっていた問いを投げかける。
「お前、どうしてそこまで俺に情報を教えるんだ?何が目的だ」
「……閣下には懸賞金がかかっていてな。まぁ金目当てってやつだ。」
左ひじをテーブルの上に置き、顎を触りながら男は答えた。
「名乗るのが遅れたな、……俺の名前はヨシュアだ。よろしく。」
手を出したヨシュアにつられて手を出す。
すると突然、彼の体がズルっと傾いた。慌てて腕で支える。
先程の話の内容が誰かに聞かれていて、薬でも盛られたかと周囲を見渡すがそれらしい人物はいなく、また、酒を持ってきたウェイターもあやしい素振りはなかった。
頭の中で原因を考えつつ、目の前の男の容態を確認する。
「おい、大丈夫か!顔も耳も……」
顔も耳も赤い。言いかけて、察した。
―――こいつ、まさか。
しまったと思い、離れようとするもガシッと両腕を捕まれる。
強いアルコールの香りを漂わせている男の顔はみるみるうちに真っ青になっていく。
「おいバカやめろ、我慢しろ、せめて離せ!!!!!!!」
ウィリアムの叫びも虚しく、ヨシュアは盛大に吐いた。
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