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「…この銭湯はおじいちゃんが始めたものでした。おじいちゃんは新しいものが好きで、もともと、一つの大きな湯船もこうして増えていったんです。また待ち合いの古いゲームとかもそうです。もしかしたら孫である自分を楽しませるためだったかもしれませんが。
おじいちゃんはまもなく老衰で。父がこの銭湯を引き継ぐ事になりました。私もいずれかはここを引き継ぐつもりで居ました。物心ついた頃からここの手伝いも良くしていたし、そうなるのだと疑ってなかったです。
しかし、新しいものが好きなおじいちゃんに比べて父は保守的でした。時代も移り変わり、古臭い銭湯は地元の人以外が来ない場所へ。
そうして、父は自分の代でたたむと言い出したんですよ。『お前はまだ若いしやりたいことをやれ』って。言葉だけ聞くと父が良い人みたいですが、私にとっては良くなくて。たしかにその時には、掃除や備品の補充は出来ても、お金の管理や経営なんて出来る訳は無い。でも、私は許せなかったんです。
そうこうしていると、あの事件が起きました。常連の白崎遥斗君の溺死事件。
これが大きな悲劇の始まりでした。
白崎遥斗君が溺死して、父はなおこと、たたむ事を加速させるように言い始めたんです。建物も壊していく。設備も減らしていく。その段取り早めて。そして足湯を解体すると。
でも、父はその時に亡くなりました。」
「お父さんが?」
「はい、あの足湯の中で。設備のお湯の循環しているポンプに頭を突っ込んで。…普通じゃない。私はそう思いました。」
「…というのは?」
「…足湯の循環ポンプというのはそんなに強力なものではないんですんよ。市の運営しているプールとかに子どもが巻き込まれたとかそういうレベルじゃない。だから普通はそんなことで亡くならないのに…。」
「因みに…その足湯の作りをちゃんと教えてもらっていいですか?」
「…あ、…あぁ。そうだな。…失礼。」
遊矢はスマホを取り出して他の従業員へ連絡し従業員がファイルを持ってくる。
「古い資料でな。」
めくるファイル。そこにある色んな図や説明書。設備の位置や電気の図面が難しく細かく書いてあるのをめくり、概略図を探す。そして見せてもらった概略図。そこには三つの長方形が列んでいる。いや正方形をアルファベットのT字で三つに割ったというべきか。
「男湯と女湯が背中合わせになっており、そしてもう一つの部屋が漢方を焚いたり、足湯を循環し流しているところです。この部屋で父は亡くなりました。」
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