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「…この奥の部屋は…つまり従業員しか入れない?」
「ええ、出入口には実は男湯から女湯からも鍵を使って入っていけますし、中でも鍵を開ければ設備室から男足湯へ、設備室から女足湯へいけます。
家はおじいちゃんの時代から男がほとんどで。珍しく手作りの『男性が掃除してます』の札があるんです。改修するまでは常連さんとかだと、私が女湯の備品を整理したり、掃除してても嫌な顔をしなくなりましたね。」
「…この設備室にはつまり、男湯側から出入口に、女湯側から出入口に。男湯側から男足湯を通って行く、女湯から女足湯を通って行く、の4通りで行けるわけですね。」
「ええ、父がそこで何をしていたか?いつ入ったか?わからないことばかりです。足湯のポンプはそんなに力もなく、詰まることもなくて。でもそこに頭を入れて沈んでいたんです。」
「…それは奇っ怪ですね。」
「それは警察にちゃんと届け出を出したんですか?」
「したさ。それでもそんなに暇じゃないからと。」
成美の攻撃的な質問も遊矢はサラリと返答する。
「風のうわさで白崎遥斗君の父親も亡くなったと。それも同じような溺死だったと。だから嫌な感じがしたんだ。
おじいちゃんが作ったものだからか?それとも遥斗君が亡くなったからか?それはわからないがここに関わるものが溺死するなんて。だからこれだけ残したんだ。」
高畑は満足そうにうなずいた。成美はまだ不満気で不信感を全開だ。
「お話ありがとうございます。」
高畑は資料を出す。
「こちらの内容…本日の取材の件について公表できる内容や公開の可否について記入欄してください。特に無ければ白紙でサインをいただければ。」
「ああ。」
遊矢はそのままサインをした。
「では本日は貴重なお時間ありがとうございました。また何かあればお願いします。」
高畑と成美は取材を終えて銭湯を出た。
「あーなるほどね…。まあ面白いストーリーだな。」
高畑は伸びをしながら空に言う。
「高畑さん、優しいというか、話を聞かなさすぎです。まだまだ詰め込んで話さないと。」
「そんなの通じる相手少ないぞ。よく前のホテルのオーナーの話出来たな。」
「時間かけましたから。」
「お~、怖。」
「ふざけてないで、取り敢えず事実を確認するため、彼の父が亡くなったか確認しましょう。」
「……そうだな。」
「?…何か気になりますか?」
高畑の一拍の間を成美は逃さない。
「うーん、あの3代目の話し方というか…まだそれで終わりじゃない気がするんだよね。裏というか性格というか。」
「性格?」
「まあまあ、成美さんは気にしないで。記事を出さないと新沼さんも怒るから。」
高畑の背中に少し違和感をいだきつつ成美は早足で並んで会社へ向かった。
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