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翌日。高畑は職場で調べを始めていた。この街の戦闘についての記事や本。そしてSNSの投稿なんかも、今や立派な情報だ。高畑はネットで確認する限りあの銭湯はリニューアルする前は随分と規模が小さく、昔ながらの銭湯という感じだったようだ。敷地こそあれど、使わなくなった設備やいつから置いてあるかわからないようなゲーム機。おしゃれさもない、暑いだけの部屋になったサウナ。大きな改修というかはもはや今の銭湯とは別物だ。
「…はい、高畑さん。言われていた資料です。」
「お、さすが成美さんは仕事が早いね。」
成美が纏めた紙を広げるとそこには一つ事故の記事が。
「6年前、2代目が運営する如月の湯で1歳の幼児が足湯で溺死事故が。」
「1歳の子どもが?かわいそうに。」
そう言いながら亡くなった子どもの名前を確認する。
「白崎 遥斗君か。」
「ええ。幼児の事故はどうしても発生する可能性があるもので。」
「いいじゃない?子どもの無念の呪いか。」
「呪いなんてありませんよ。」
「そこはリアルなんだな。」
「リアルが大事です。」
「んだけど、あの3代目はちょっとそういうのを気にしているはずだ。わざわざあんなに改修をするのにあの足湯を残しているんだから。」
「…解決してあげましょう。呪いじゃなくてもなにかの偶然か作為的な事があったんでしょうか?」
「そこは取材だろ?あの銭湯は地元民に愛されていたみたいだしな。記事にならない情報は足で集めるさ。」
高畑はニヤニヤしながら立ち上がった。
「…高畑さん、楽しそうですね。」
「こいうのが好きじゃなきゃこんな仕事しないさ。早いとこ解決しないと。」
「…何かありました?」
成美の問いに高畑は少し止まる。
「高畑さんって積極的に解決に向かうような人じゃないですよね。有耶無耶にして長引かせて、人をあしらうようにして笑って。」
「んー、気にすんなよ。」
高畑の頭の中には一瞬だけ聞こえた、『タスケ…』がまだこだましていた。
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