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6年前の惨劇
高畑は露天風呂に浸かる。そしておじいさん達と話をしている。この銭湯に通う、地元の人から話を聞くことが出来るようになっていた。話し相手は60代〜70代の男性達。高畑はこの中では若造だ。しかし相手の人たちの記憶が曖昧というわけでもなく、取材としてはなかなか有力そうだ。
「…覚えているよ。子どもがあの足湯で亡くなった事件。」
「ああ、先代の和人さんの時のだろう?」
「可哀想になぁ。白崎さんとこの子は、元気だったのに。」
お風呂でその話は持ち切りになるほど、地元の人としては有名な事件らしい。
「詳しく聞かせてくれませんか?」
高畑は頭にタオルを乗せて、のぼせるのを我慢しながら話を聞く。
「ここの先代は小さい銭湯でな。こんな色んな所から、沢山の人や子どもの来る場所じゃなくてな。わしらみたいな、常連ばかりだったんだが…、ある時からあんたくらいの若いお父さんが時々子連れで来るようになったんだ。
それが白崎さんだ。鈴野さんの娘さんと結婚したって事でここいらに家を構えて引っ越してきたんだ。
最初は気まぐれで来てるかと思ったけど、珍しいし何度も来てるからそのうちわしらも覚えたんだ。
まあ、若いのにしっかりしとったわ。最初は娘さん連れてな。気づいたら、お子さん二人連れになって。息子さんも連れてきて。最近はお父さんが世話するんだって言ってた。」
「息子さんが白崎遥斗君?」
「そうそう!遥斗君だ。よく『ババーイ』って手を振っとたわ。ニカニカよう笑うし、水あびても泣かん強い子だったわ。」
「昔からここは畳敷きで、直ぐにお父さんに向かってハイハイしとったな。上手に縁に手をついて歩いとったし。」
「お父さんも、ここが畳だし、客も限られてるから、かえってのびのび家の風呂のようにできるって言ってたわ。」
おじさん達はみな思い出して口を揃えてそんな話をしていく。
「そんな…遥斗君が足湯で?」
高畑は確認するように言うとおじさん達は顔を曇らせた。
「足湯な…。本当にびっくりしてな。…今みたいにたくさん客が居ればよかったんだろうがな。昔の足湯は露天風呂から少し離れていたしな。大浴場から外へ出て、右に露天風呂。左に足湯。みたいな作りで。誰がいつ足湯行ったかなんて把握できないし、客も少なくてな。あのときはわしはなんとなく白崎さんが遥斗君を抱えて足湯に行くのを見てたんじゃ。
少し熱った身体を休ませようと露天風呂から大浴場へ入って直ぐだったよ。
白崎さんが遥斗君を抱えて血相変えて飛び出してきたのは。」
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