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銭湯の秘密
山のような書類の束が連なる机に向かう男性。鼻が痒く、擦ると自然とくしゃみが。くしゃみの勢いで書類が雪崩崩れる。
「あ〜、いけねー。」
散らかる書類をかき集めていく。そこには『異界へ行くエレベーター』や『くねくね』、『フォルダに使えないprnの謎』と。どれもまことしやかに囁かれたことのある内容だ。
その一部を男性が拾って目を通す。
「新沼さーん。こんなのどうですか?」
男性が取り出した一枚の書類。そこには『口裂けの女』と書かれた紙。それを受け取る男性。恰幅のいい身体に白髪交じりの髪。奪い取るように男性の差し出した紙を取る。
「今更『口裂け女』かよ、俺の小さい時の話題じゃねぇか!」
「でも、今みんなマスクしてるから。」
「ったく、お前は相変わらず妙なところ理屈っぽいな!締め切り近いからこれでいくか!適当に脚色しとけ!昔はベッコウ飴を渡したら見逃してくれるとか言ったもんだ!」
新沼は投げつけるように男性に紙を返した。そしてスマホに出る。
「もしもし、おまたせしております…。はいそうです!…ええ、ええ。あまり有名ではないですが定期的に発行しております。はい、そうです。…『ソウ』という雑誌で…。ええ、真実か嘘かを我々独自の目線で取材しております。ぜひともお邪魔をさせてもらえたらと…。ええ、昨今の事情はわかりますが、そこはオンラインではなく現地取材出来ればと…。」
新沼はスマホを片手にペコペコ頭を下げる。
そんな姿を横目に男性は先程の投げ返された書類から記事を作り上げる。
ここは雑誌『ソウ』の編集と記者達の部屋だ。嘘を反対にして『ソウ』。マニアに向けた都市伝説や怖い話を纏める雑誌だ。
昔はそれなりに部数も売上も有ったが今はさほど。それに加えて昨今の事情により現地の取材が減り、ネットの寄せ集めや、昔の記事の再編集が増えている。
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