いつまでこいつの英雄でいられるのか

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「じゃあ兄さん、あたしだけのおうじさまだね。おうじさまはね、いつでも来てくれるの」 「うん」  疑いを知らない笑顔に本当のことを教えるのは、あまりに早すぎる。  御伽の英雄みたいになれるわけがない。無理かもしれない。そんなことは分かっている。そしていつかこの子も、兄の自分ではなく別の男性に心惹かれることも。  だが、少しの間くらいはこの嘘を許して欲しい。王子だろうと英雄だろうと、不安に怯えることがなくなるならば。 「約束するから。必ず一緒にいるから」  いつか彼女だけの英雄が現れるまでは。  波音は止まず、風が鞭打つように窓を叩く。  平穏はまだ遠い。緊張を解いて目を瞑る妹を、青年は優しく抱き寄せた。  この狭い部屋の中にいる時くらい、少女の心に英雄が訪れるように。  ***少女と青年が、別の誰かと出会うずっとずっと前のお話***
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