第8話

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 3日後──金曜日の昼休み、私は廊下を急いでいた。  行き先は、いつもの書庫。間中くんには、いちおう「反省会をしよう」って声をかけたけど、本当の目的は違う。  私は、これから「無駄」で「無意味」なことを果たしにいくのだ。 (一矢報いる……か)  お姉ちゃんのいうことはだいたい当てにならない。  でも、あの一言はなぜか私のなかでピーンと響いた。まるで何かのお告げみたいに。「そのとおり」って手を打ったみたいに。  私が好きって伝えたら、間中くんはどんな顔をするだろう。  驚くだろうな。それから困るだろうな。  困らせるのは──ちょっと気の毒かも  けど、私はもっと困ってる。間中くんのこと、前よりもっと好きになって頭を抱えているんだ。  だから、ちょっとだけ「うっ」ってなってほしい。小さな傷くらい作ってほしい。  渡り廊下にさしかかったところで、見知った人影に気がついた。  綾が、なにやら抱えて歩いてくるところだった。そういえば、綾って理科係だっけ。じゃあ、あれは5時間目の授業で使う資料だろうな。  向こうも気づいたのか「あっ」って立ち止まった。  私は、自分から綾に近づくと「あのさ」と思いきって声をかけてみた。 「明日の午後、ヒマ?」 「え……」 「ヒマなら、いつもの公園に行かない?」  綾に、聞いてほしいことがあるんだ。  はじめての好きになった人のこと。  ドキドキしたり、傷ついたりした日のこと。  後夜祭で、声をあげて泣いた理由。  綾は、戸惑ったように私を見た。 「ええと……明日よりは明後日のほうがいいな。それか、今なら……」 「今はダメ。これから告白してくるから」 「えっ」 「まあ、フラれるってわかってるんだけど」  「えっ、えっ」と綾は繰り返す。これって、めちゃくちゃ混乱しているときの彼女のクセだ。 「大丈夫、一矢報いてくるだけ」  そこから先は、どうなるかわからない。  でも、たかが恋──たぶん、どうってことない。  泣いて笑って、いつかどうにかなるだろう。  じゃあね、と私はまた歩き出した。  まだ読んだことのない本を手に取るときのような、ふわふわワクワクするような気持ちで。 (了)
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