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午後の授業は、まるで身が入らなかった。
予習したときにわからなかった計算式や文法の解説も、結局ぜんぶ聞き流してしまった。
ああ、もったいない。
無駄な時間を過ごしてしまった。
それもこれもぜんぶ誰かさんのせいだ。
(間中勇め)
その間中くんは、5時間目も6時間目もめずらしく居眠りしていなかった。
かといって、ちゃんと授業を聞いているふうでもない。
頬杖をついたまま、ずっと何かを転がすばかり。
私の席からだとよく見えないけど、たぶん転がしているのは筆記用具だ。ああいうの、テストのとき以外になんの意味があるのかな。
──「俺は、友達にそういうことをされたくない」
友達──そうか、私は間中くんの友達だったのか。
昨日の昼休みのことが頭をよぎる。
間中くんのことを勝手に仲間だと思って、だからこそ彼の恋心に気づいて裏切られたように感じたあの気持ち。
なんだか胸のあたりがスカスカした。綾が、他の子たちと仲良くしはじめたときと少し似ていた。
へんなの。間中くんと綾じゃ比べ物にならないのに。
帰りのホームルームが終わり、みんな一斉に席を立つ。いつもなら真っ先に教室を飛び出す間中くんは、今日はずいぶんノロノロ気味だ。
「マナーっ、先に行くぞ」
「んー」
「今日、整備当番だから絶対遅れんなよ!」
「んー」
謝ったほうがいいのだろうか。
たしかに私のやり方は卑怯だったと言えなくもない。
(でも、もとはといえば間中くんだ)
彼が素直に答えていれば、私だってあんなことをしないで済んだ。
悪いのは間中くんだ。私が謝る必要はない。
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