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と、まあ、決意してみたものの──
(どうやって謝ろう)
いつもひとりの私とは違って、彼のまわりには常に誰かがいる。
クラスメイトはもちろん、他のクラスのサッカー部の子たちがうちの教室まで来ることもあるくらいだ。
まさか、そのなかにむりやり割り込んでいって「この間はごめん」なんて言えるはずもない。
もちろん、放課後になると間中くんはさっさとグラウンドに行ってしまう。
(となると、チャンスは昼休み)
でも、今日はダメだ。図書当番の日だから。
というわけで今、図書室で頬杖をつきながら、私はあれこれ作戦を練っていた。
(声をかけるなら、給食が終わってすぐかな)
誰かが声をかける前に、こっそり近づいて「ごめん」っていうとか?
でも、誰かに聞かれていたらあれこれ詮索されるかもしれない。特に坂田くんあたりに聞かれでもしたら最悪だ。「なあなあ、ごめんって何?」って大声で言いふらされて、この間の「つきあって」発言以来の大惨事になりかねない。
(じゃあ、教室以外の場所に呼び出す?)
でも、人目につかないところなんて限られている。
いちおう、心当たりもなくはないけど──
と、受付の前に誰かが立った。
貸し出しだろうか、と顔をあげて危うく悲鳴をあげそうになった。
(ま、間中くん!?)
間中くんは仏頂面のまま、無言で本を差し出してきた。
先日借りていった短距離走のトレーニング本だ。
「……返却ですね」
「……」
「受け取りました。ありがとうございます」
けれども、間中くんは立ち去ろうとしない。
どうしたんだろう、と怪訝に思っていると本をめくるようなジェスチャーをした。なるほど、中身を確認しろってことか。
言われたとおりに表紙を開くと、四つ折りの便せんが見つかった。
なにこれ、手紙? ノートの切れ端っぽいけど。
──「佐島へ」
うわ、汚い字。
──「この間の件、俺はまだ怒ってる」
でしょうね。
──「でも、俺もウジウジしすぎたとは思ってる」
え……?
──「はっきり言う。俺は池沢先輩が好きです」
すごい手紙だ。この1枚に謝罪と告白──まるでカレーのあいがけみたいだ。
ちら、と視線をあげると、間中くんと目があった。うっすらと赤く染まっている頬は、好きな男子の話をするときの綾と同じだ。
「うん、知ってる」
間中くんが結麻ちゃんを好きなの、とっくに知ってるよ。
それと──
「私もごめん。卑怯なことをしたの、悪かったと思ってる」
自然とこぼれたお詫びの言葉に、間中くんは瞬きをひとつ。
それから、ぱあっと笑顔になった。まるで、大きな花が開くみたいに。
「よかった! じゃあ、これで俺らも仲直──あっ」
やばっと呟いて、間中くんは口元を押さえた。
「どうしたの?」
「……」
「まさか吐きそうとか?」
私の問い掛けに、間中くんはぷるぷると首を振った。それで、ようやく彼がジェスチャーをする理由に思い至った。
「いいよ、小さな声なら」
「けど俺、興奮するとすぐ声がでかくなるし」
そうか、だからわざわざ手紙を書いてくれたんだ。
おバカな間中くんにしては賢いやり方だ。
「そうだ、俺、もう一通手紙を書いてきたんだった」
間中くんはポケットをごそごそと探りはじめた。
「へぇ、誰宛て?」
「もちろん佐島宛て──あった!」
ノートの切れ端、再び。
まあ、いいか。内容がわかりさえすれば。
「今、読んだほうがいい?」
「もちろん」
「わかった。じゃあ……」
ガサガサと2通目の手紙を開く。
今度は一文のみだ。あいかわらず汚い字。
──「俺と池沢先輩のキューペットになってくれ」
拒否とつっこみ、どっちを先にするべきだろうか。
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