第2話

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 と、まあ、決意してみたものの── (どうやって謝ろう)  いつもひとりの私とは違って、彼のまわりには常に誰かがいる。  クラスメイトはもちろん、他のクラスのサッカー部の子たちがうちの教室まで来ることもあるくらいだ。  まさか、そのなかにむりやり割り込んでいって「この間はごめん」なんて言えるはずもない。  もちろん、放課後になると間中くんはさっさとグラウンドに行ってしまう。 (となると、チャンスは昼休み)  でも、今日はダメだ。図書当番の日だから。  というわけで今、図書室で頬杖をつきながら、私はあれこれ作戦を練っていた。 (声をかけるなら、給食が終わってすぐかな)  誰かが声をかける前に、こっそり近づいて「ごめん」っていうとか?  でも、誰かに聞かれていたらあれこれ詮索されるかもしれない。特に坂田くんあたりに聞かれでもしたら最悪だ。「なあなあ、ごめんって何?」って大声で言いふらされて、この間の「つきあって」発言以来の大惨事になりかねない。 (じゃあ、教室以外の場所に呼び出す?)  でも、人目につかないところなんて限られている。  いちおう、心当たりもなくはないけど──  と、受付の前に誰かが立った。  貸し出しだろうか、と顔をあげて危うく悲鳴をあげそうになった。 (ま、間中くん!?)  間中くんは仏頂面のまま、無言で本を差し出してきた。  先日借りていった短距離走のトレーニング本だ。 「……返却ですね」 「……」 「受け取りました。ありがとうございます」  けれども、間中くんは立ち去ろうとしない。  どうしたんだろう、と怪訝に思っていると本をめくるようなジェスチャーをした。なるほど、中身を確認しろってことか。  言われたとおりに表紙を開くと、四つ折りの便せんが見つかった。  なにこれ、手紙? ノートの切れ端っぽいけど。 ──「佐島へ」  うわ、汚い字。 ──「この間の件、俺はまだ怒ってる」  でしょうね。 ──「でも、俺もウジウジしすぎたとは思ってる」  え……? ──「はっきり言う。俺は池沢先輩が好きです」  すごい手紙だ。この1枚に謝罪と告白──まるでカレーのあいがけみたいだ。  ちら、と視線をあげると、間中くんと目があった。うっすらと赤く染まっている頬は、好きな男子の話をするときの綾と同じだ。 「うん、知ってる」  間中くんが結麻ちゃんを好きなの、とっくに知ってるよ。  それと── 「私もごめん。卑怯なことをしたの、悪かったと思ってる」  自然とこぼれたお詫びの言葉に、間中くんは瞬きをひとつ。  それから、ぱあっと笑顔になった。まるで、大きな花が開くみたいに。 「よかった! じゃあ、これで俺らも仲直──あっ」  やばっと呟いて、間中くんは口元を押さえた。 「どうしたの?」 「……」 「まさか吐きそうとか?」  私の問い掛けに、間中くんはぷるぷると首を振った。それで、ようやく彼がジェスチャーをする理由に思い至った。 「いいよ、小さな声なら」 「けど俺、興奮するとすぐ声がでかくなるし」  そうか、だからわざわざ手紙を書いてくれたんだ。  おバカな間中くんにしては賢いやり方だ。 「そうだ、俺、もう一通手紙を書いてきたんだった」  間中くんはポケットをごそごそと探りはじめた。 「へぇ、誰宛て?」 「もちろん佐島宛て──あった!」  ノートの切れ端、再び。  まあ、いいか。内容がわかりさえすれば。 「今、読んだほうがいい?」 「もちろん」 「わかった。じゃあ……」  ガサガサと2通目の手紙を開く。  今度は一文のみだ。あいかわらず汚い字。 ──「俺と池沢先輩のキューペットになってくれ」  拒否とつっこみ、どっちを先にするべきだろうか。
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