第2話

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 結麻ちゃんの外見に憧れる人は、すごく多い。なにせ美人だ。皆が認める「きれいな子」だ。  でも、そんなの結麻ちゃんの良さのほんの一部だ。 (やさしい、親切、頭がいい、ていねい、努力家、読書が好き、私の話をいっぱい聞いてくれる、それから……それから……)  挙げていくときりがない。それくらい、結麻ちゃんの素敵なところはいっぱいあるんだ。  なのに、結麻ちゃんを好きになる子たちってみんな間中くんみたいな感じだ。  パッと見て「美人!」って目をキラキラさせて、好きになるパターン。どいつもこいつも、結麻ちゃんの良さをぜんぜんわかっていない。 「どうしたの、トモちゃん。怖い顔して」  苦笑いにハッとした。  そうだ、今日は結麻ちゃんとおじいちゃんの誕生日プレゼントを買いにきたんだった。  ちなみに、お姉ちゃんはここにはいない。私と結麻ちゃんに押しつけて、ちゃっかり遊びにいってしまった。 「なんでもないよ。ちょっと考え事をしていただけ」 「そう。……あ、見て、トモちゃん。このクッションどうかな」 「クッション? どうして?」 「おじいちゃん、よく居間で眠ってるでしょ。そのときの枕がわりのクッション、もうだいぶクタクタだったんだ」  ──たしかに、この間、遊びにいったとき「ボロボロだなぁ」って思ったっけ。  でも、私はそれでおしまいだった。結麻ちゃんみたいに「新しいクッションをプレゼントしよう」なんて考えもしなかった。  やっぱり結麻ちゃんはすごいなぁ。 「色はどれがいいかな?」 「んー私はこのオレンジのが好きだけど、おじいちゃんだとこっちかな」 「じゃあ、いくつか候補を選んで、真里ちゃんの意見も聞こっか」 「えっ」  なんでお姉ちゃん?  ふたりからのプレゼントじゃダメ? 「そうはいかないよ。真里ちゃんからもお金をあずかってきたでしょ」 「そうだけど……お姉ちゃんは『面倒くさい』って私たちに押しつけたんだよ?」 「そんなことないよ。大事な用事があって外せないから、私とトモちゃんに託したんだよ」  おっとり微笑む結麻ちゃんに、私は「ん──」って声をあげたくなった。 (もどかしい)  結麻ちゃんってば、人が良すぎ。そういうところ、いとことしてはときどき心配になっちゃうよ。  実際、小学生のころもいたんだ。結麻ちゃんの優しさにつけこんで、放課後の掃除を押しつけた人たち。あとで先生にバレて、学級会で議題になったらしいけど。 「結麻ちゃんは、もっと悪いやつになったほうがいいと思うよ」  思わずこぼすと、結麻ちゃんは「ええっ」と愉快そうに笑った。 「悪いやつかぁ、具体的には?」 「えっ、そ、そうだなぁ……給食当番のとき、自分のだけちょっぴり多めに盛り付けるとか?」 「じゃあ、エッグカレーのときたまごを1個多くいれようかな」  わかってる。こんなことを言っても、結麻ちゃんは絶対実行にうつさない。給食当番のときにエッグカレーがでたら、どの器にも均等にうずらのたまごをいれるだろうし、それで万が一自分の分が足りなくなったとしても「仕方ない」で済ませてしまうだろう。 (いつか、結麻ちゃんに恋人ができるとしたら……)  結麻ちゃんの、こういうところを理解してくれる人がいい。  できれば、支えてくれる人がいい。  結麻ちゃんが損しないように、気をまわしてくれる人がいい。 (だから、論外だ。結麻ちゃんの顔しか見ていない人なんて)  間中くんは、悪いやつじゃないけど──  結麻ちゃんの外見だけを好きなうちは、協力なんてしてたまるか。
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