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さて、昼休み。一足先に待ち合わせ場所で待っていると、ノックもなしにいきなりドアが開いた。
「うわ、カビくさっ」
「書庫だから。ていうか入る前にノックしてよ」
軽く睨むと「悪い悪い」っておなじみの笑顔が返ってきた。
「俺、いっつも忘れるんだよなぁ。この間、職員室でもそれで怒られた」
「だったら同じことを繰り返さないで」
「悪い悪い」
軽いなぁ、もう。
ため息をつきたいのを我慢して、どうぞと奥の脚立を指し示した。いつも私が椅子がわりに座っているところだけど、今日はお客さんに譲ってあげようじゃないか。
「なぁ、ここなんでたくさん本があるの?」
「さっき言ったでしょ。『書庫』だから」
メモを渡すときは「秘密の場所」って伝えたけど、図書委員をつとめたことがある人なら、この部屋のことは誰でも知っている。委員会初日に、先生が案内してくれるからだ。
もちろん、鍵が図書室の受付の机のなかにあることも知っている。
ただ、利用する人はほとんどいない。書庫の本を借りたいという生徒はめったにいないし、図書委員のなかでも本好きはせいぜい半分ほど。その半分の人たちも図書室内の本で間に合っているみたいだから、書庫に何度も出入りしているのはどうやら私だけみたいなのだ。
「だから『秘密の場所』。ほこりっぽいから、ずっといるのは無理だけど」
「だよな。それにここ、なんかジメジメしてる……」
そりゃ、太陽の下で走りまわっているサッカー部員からすればそうだろう。
でも、我慢してほしい。一度きりのことなんだから。
「で、なになに? 話って」
「いい加減、はっきりさせようと思って」
そう、ここからが本題だ。
「結麻ちゃんの件だけど、協力はできません」
「それはもう聞いた。なんで?」
中学生の恋愛なんて無駄だから。
そんなものに協力する意義を感じられないから。
そして、なにより──
「一目惚れだから」
間中くんが好きになったのは、結麻ちゃんの外見だから。
「結麻ちゃんはたしかに美人だよ。男子だけじゃなく、女子でも憧れる人は多いし、私もいつもいいなぁって思ってる」
でも、結麻ちゃんが本当にきれいなのは、その中身だ。「内面」「性格」などと呼ばれているもの。
そこが、結麻ちゃんはとびきりきれいで、さらにあたたかくてやさしくて──つまり、私は外見以上に結麻ちゃんの中身が大好きなんだ。
「そういうのわかってくれる人じゃないと協力したくない。だから、間中くんには力を貸せない」
よし、伝えた!
これくらいはっきり言えば、間中くんもさすがにわかってくれるだろう。
なのに、間中くんの第一声は「んー?」だった。
「ごめん、よくわかんない。一目惚れがダメ?」
「そう、一目惚れはダメ」
「じゃあ、いいじゃん」
今度は、嬉しそうに胸を張った。
「俺、一目惚れじゃない! だったら協力するのオッケーじゃん」
──うん? 今なんと?
「いやいや、嘘つかないでよ。結麻ちゃんのこと好きになったの、この間でしょ。図書室で結麻ちゃんを見て、好きになって、それで……」
「そんなこと言ってない。俺が池沢先輩を好きになったの、もっとずっと前」
──んん?
「たぶん夏休み前……ええと、たしか……」
以下、間中くんが言うには──
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