第2話

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 さて、昼休み。一足先に待ち合わせ場所で待っていると、ノックもなしにいきなりドアが開いた。 「うわ、カビくさっ」 「書庫だから。ていうか入る前にノックしてよ」  軽く睨むと「悪い悪い」っておなじみの笑顔が返ってきた。 「俺、いっつも忘れるんだよなぁ。この間、職員室でもそれで怒られた」 「だったら同じことを繰り返さないで」 「悪い悪い」  軽いなぁ、もう。  ため息をつきたいのを我慢して、どうぞと奥の脚立を指し示した。いつも私が椅子がわりに座っているところだけど、今日はお客さんに譲ってあげようじゃないか。 「なぁ、ここなんでたくさん本があるの?」 「さっき言ったでしょ。『書庫』だから」  メモを渡すときは「秘密の場所」って伝えたけど、図書委員をつとめたことがある人なら、この部屋のことは誰でも知っている。委員会初日に、先生が案内してくれるからだ。  もちろん、鍵が図書室の受付の机のなかにあることも知っている。  ただ、利用する人はほとんどいない。書庫の本を借りたいという生徒はめったにいないし、図書委員のなかでも本好きはせいぜい半分ほど。その半分の人たちも図書室内の本で間に合っているみたいだから、書庫に何度も出入りしているのはどうやら私だけみたいなのだ。 「だから『秘密の場所』。ほこりっぽいから、ずっといるのは無理だけど」 「だよな。それにここ、なんかジメジメしてる……」  そりゃ、太陽の下で走りまわっているサッカー部員からすればそうだろう。  でも、我慢してほしい。一度きりのことなんだから。 「で、なになに? 話って」 「いい加減、はっきりさせようと思って」  そう、ここからが本題だ。 「結麻ちゃんの件だけど、協力はできません」 「それはもう聞いた。なんで?」  中学生の恋愛なんて無駄だから。  そんなものに協力する意義を感じられないから。  そして、なにより── 「一目惚れだから」  間中くんが好きになったのは、結麻ちゃんの外見だから。 「結麻ちゃんはたしかに美人だよ。男子だけじゃなく、女子でも憧れる人は多いし、私もいつもいいなぁって思ってる」  でも、結麻ちゃんが本当にきれいなのは、その中身だ。「内面」「性格」などと呼ばれているもの。  そこが、結麻ちゃんはとびきりきれいで、さらにあたたかくてやさしくて──つまり、私は外見以上に結麻ちゃんの中身が大好きなんだ。 「そういうのわかってくれる人じゃないと協力したくない。だから、間中くんには力を貸せない」  よし、伝えた!  これくらいはっきり言えば、間中くんもさすがにわかってくれるだろう。 なのに、間中くんの第一声は「んー?」だった。 「ごめん、よくわかんない。一目惚れがダメ?」 「そう、一目惚れはダメ」 「じゃあ、いいじゃん」  今度は、嬉しそうに胸を張った。 「俺、一目惚れじゃない! だったら協力するのオッケーじゃん」  ──うん? 今なんと? 「いやいや、嘘つかないでよ。結麻ちゃんのこと好きになったの、この間でしょ。図書室で結麻ちゃんを見て、好きになって、それで……」 「そんなこと言ってない。俺が池沢先輩を好きになったの、もっとずっと前」  ──んん? 「たぶん夏休み前……ええと、たしか……」  以下、間中くんが言うには──
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