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「『ありがとう』って言ってるみたいに見えた」
「……ありがとう? 何に?」
「楽器とか音楽室とか。たぶん、俺がボールやスパイクの手入れをすんのと同じ」
「……」
「だから、なんか、ええと……池沢先輩のこと『わかる』みたいな? 『仲間じゃん』みたいな? で、毎朝見ているうちに、いつのまにか朝以外でも気になるようになったっつーか」
でも、と間中くんの声のトーンが少し落ちた。
「実は、池沢先輩をすぐ近くで見たの、この間の図書室が初めてでさ。あのとき『この人、すげーキラキラしてる』ってびっくりして……だから、その……たぶん池沢先輩の見た目も好きだと思う」
それから気まずそうに「ごめん」と付け加えてきた。たぶん、私に怒られるとでも思ったのだろう。
私は、まじまじと彼を見た。
意外だった。彼も、結麻ちゃんの「外見だけ」を好きなのだと思ってた。
(でも、違った)
むしろ逆だ。最初に結麻ちゃんの中身をいいなって思って、そのあと外見も好きになったんだ。
「あのさ、ひとつ質問してもいい?」
「おう、なんだ?」
「もし、間中くんが吹奏楽部員だったら、朝練のとき結麻ちゃんと一緒に掃除する?」
「当たり前だろ」
悩むことなく、間中くんはにぱっと笑った。
「楽器も音楽室も大事! 掃除するの当然! それに、池沢先輩ひとりより俺とふたりのほうが早く片付くだろ」
「まあ、そうだね」
それに、結麻ちゃんとふたりきになれるチャンスだ。つまり、間中くんからすれば、いわゆる「おいしい状況」ってヤツ──
「もちろん、俺が図書委員だったら、佐島の手伝いもするぞ」
──え?
「ここの掃除! 佐島がしてんだろ?」
「……なんで?」
「ここ、カビくさいけど、ほこりとかぜんぜんないじゃん。ここにくるの、佐島だけなんだろ?」
そのとおりだ。私ばかりがここに足を運んでいて、だからついでに掃除をしていたのだ。
放っておくと、すぐに書棚にほこりがたまるから。
それじゃ、本が可哀想だったから。
改めて、間中くんを見た。大きな目が、三日月を倒したみたいな形で私を見ていた。
「わかった。協力する」
「へっ……?」
「結麻ちゃんとうまくいくよう、協力してあげる」
間中くんは、またもや「ふえっ」とへんな声をあげたあと
「マジで!? マジでマジでマジで!?」
「うん」
「やったぁっ! サンキュ、佐島!」
大きな両手が、ギュッと私の右手を包んだ。
それから力任せにブンブンと振りまわしてきた。
「痛っ……ちぎれる! ちぎれるから!」
「ハハッ、悪い悪い!」
そんなわけで、私は間中くんの恋に協力することになった。
正直あまり気が進まないけど、まあ、仕方ないかなって。
なにせ、私たちは「友達」なんだから。
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