第2話

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「『ありがとう』って言ってるみたいに見えた」 「……ありがとう? 何に?」 「楽器とか音楽室とか。たぶん、俺がボールやスパイクの手入れをすんのと同じ」 「……」 「だから、なんか、ええと……池沢先輩のこと『わかる』みたいな? 『仲間じゃん』みたいな? で、毎朝見ているうちに、いつのまにか朝以外でも気になるようになったっつーか」  でも、と間中くんの声のトーンが少し落ちた。 「実は、池沢先輩をすぐ近くで見たの、この間の図書室が初めてでさ。あのとき『この人、すげーキラキラしてる』ってびっくりして……だから、その……たぶん池沢先輩の見た目も好きだと思う」  それから気まずそうに「ごめん」と付け加えてきた。たぶん、私に怒られるとでも思ったのだろう。  私は、まじまじと彼を見た。  意外だった。彼も、結麻ちゃんの「外見だけ」を好きなのだと思ってた。 (でも、違った)  むしろ逆だ。最初に結麻ちゃんの中身をいいなって思って、そのあと外見も好きになったんだ。 「あのさ、ひとつ質問してもいい?」 「おう、なんだ?」 「もし、間中くんが吹奏楽部員だったら、朝練のとき結麻ちゃんと一緒に掃除する?」 「当たり前だろ」  悩むことなく、間中くんはにぱっと笑った。 「楽器も音楽室も大事! 掃除するの当然! それに、池沢先輩ひとりより俺とふたりのほうが早く片付くだろ」 「まあ、そうだね」  それに、結麻ちゃんとふたりきになれるチャンスだ。つまり、間中くんからすれば、いわゆる「おいしい状況」ってヤツ── 「もちろん、俺が図書委員だったら、佐島の手伝いもするぞ」  ──え? 「ここの掃除! 佐島がしてんだろ?」 「……なんで?」 「ここ、カビくさいけど、ほこりとかぜんぜんないじゃん。ここにくるの、佐島だけなんだろ?」  そのとおりだ。私ばかりがここに足を運んでいて、だからついでに掃除をしていたのだ。  放っておくと、すぐに書棚にほこりがたまるから。  それじゃ、本が可哀想だったから。  改めて、間中くんを見た。大きな目が、三日月を倒したみたいな形で私を見ていた。 「わかった。協力する」 「へっ……?」 「結麻ちゃんとうまくいくよう、協力してあげる」  間中くんは、またもや「ふえっ」とへんな声をあげたあと 「マジで!? マジでマジでマジで!?」 「うん」 「やったぁっ! サンキュ、佐島!」  大きな両手が、ギュッと私の右手を包んだ。  それから力任せにブンブンと振りまわしてきた。 「痛っ……ちぎれる! ちぎれるから!」 「ハハッ、悪い悪い!」  そんなわけで、私は間中くんの恋に協力することになった。  正直あまり気が進まないけど、まあ、仕方ないかなって。  なにせ、私たちは「友達」なんだから。
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