第3話

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第3話

 一週間後の昼休み。  私は、再び間中くんのために書庫の鍵を開けていた。  ここに招き入れるのはこの間の一度きりにしたかったけれど、教室や廊下では相談にのれないから仕方がない。「書庫に図書委員以外を入れるのは禁止」みたいな校則もないから、ギリギリOKだ。たぶん。  というわけで── 「その一番上の棚の本を取って」 「ええと──これ?」  間中くんは背伸びをすると、なんとか指先に引っかけて本を取ってくれた。 「よし、これで言い訳完了っと」 「言い訳?」 「間中くんに書庫に来てもらった理由。『最上段の本をとってもらった』ってことにするから」 「おお……佐島、頭いいな!」  大きな目がきらきら輝いた。  ほんと、こういうところ単純だよね、間中くんって。 「じゃあ、さっそくだけど作戦をたてよっか」  はっきりいって、現時点で間中くんと結麻ちゃんがうまくいく可能性はかなり低い。  ふたりは知り合いではないし、学年も違う。3年生と1年生──しかも間中くんのほうが年下だ。 「え、それってダメなの?」 「ダメっていうか、ピンとこない」  他の女の子たちの噂話を聞いていても、話題になるのは年上か同い年の子ばかり。「○○小学校の××くんってかっこいいよね」なんて話、これまでに一度も聞いたことがない。 「じゃあ、俺と池沢先輩はダメってこと?」 「そこまでは言ってない。今わかってほしいのは『ハンデがある』ってこと」  しかも、そのハンデは覆せない。どんなに頑張ったところで、間中くんは結麻ちゃんと同い年にはなれないのだ。 「でも、そんなのどうでもいいってくらい間中くんが魅力的だったら、話は変わってくると思う」 「どういうこと?」 「『ストームズ』って知ってる? 今すごく人気の……」 「知ってる。アイドルだろ。うちのマネージャーがすっげぇハマってる」 「あのなかの一番人気の阿久(あく)(さわ)って子、たしか14歳なんだよね」  学年でいったら2年生──私たちの1コ上だ。 「でも、阿久沢って子のファンたくさんいるでしょ。3年生はもちろん、高校生や大学生だって」 「……あ」 「わかった? つまり……」 「俺が『ストームズ』に入ればいいんだな!」 「違うから! 絶対無理だから!」  誰でも入部できる部活じゃあるまいし。そんなことマネージャーさんの前で言ったら、たぶんボコボコにされちゃうよ。 「じゃあ、どうすればいいんだよ?」  唇を尖らせる間中くんの前で、私は持ってきたノートを開いてみせた。 「今から、自分の長所をあげてみて」 「……へっ?」 「間中くんが思う『俺のすごいところ』──最低5つは答えて。ハイ、スタート」
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