第3話

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「え、ええと……」  間中くんは、慌てたように指折り数え始めた。 「ひとつめ、サッカーがうまい。ふたつめ、食うのが早い。3つめ……小学校んときのマラソン大会で2位だった! 4つめ……4つめ……」  意外だった。  間中くんなら、もっとスラスラ答えられると思っていたのに。  しかも、これまでに挙げた3つもかなり微妙だ。 (長所って呼べるところ、もっといろいろあるのに)  明るいところ。元気なところ。気さくなところ。友達が多いところ。 (誰とでも、仲良くできるところ……) 「あ、4つめ! 背が高い!」 「それ、長所っていえる?」  たまりかねて口を挟むと、間中くんは「言える」と胸を張った。 「さっき高いとこの本取れただろ? だから長所!」 「それは……」  背が高いからじゃない、間中くんが「素直」だからだよ。  あるいは「親切」。だって、背伸びをしてもとれなかった場合、たぶん図書室から脚立を持ってきてくれたでしょ。 「あっ、ラスト1コ! 声がデカい!」  それは……まあ、否定しない。  よく「挨拶の声がいい」って誉められているし。 「わかった、ありがとう。でも、どれも意味ない」 「……へ?」 「今あげてもらった5つ、結麻ちゃんにはひとつも響かないと思う」  実は、昨日それとなく結麻ちゃんに「好きな男子のタイプ」を聞いてみたんだ。そしたら── 『クールな人が好きかな。おしゃべりじゃないからクラスではそんなに目立たないけど、面白いことがあるとひっそり笑ったりしている人。あと、たまにボソッと呟くことが面白い人。そういう人が好きかな』  わかる、間中くん?  結麻ちゃんの好きなタイプと間中くんの長所、ぜんぜん被ってないの。  むしろ正反対なの。  私の指摘に、間中くんはがっかりしたように肩を落とした。 「それって、あきらめろってことじゃん」 「そこまでは言ってない」 「……へっ?」 「未来の間中くんなら、結麻ちゃんに好きになってもらえるかも」 「どういうこと? 大人の俺ならってこと?」 「そうじゃなくて! ああ、もうつまりさ!」  私は、ビシッと間中くんに人差し指を突きつけた。 「変わるの! これから! 結麻ちゃん好みの男子に!」  そうすれば、もしかしたらチャンスはあるかもしれない。  結麻ちゃんに好きになってもらえるかもしれないんだ。
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