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なのに、間中くんは「うーん」と唇をとがらせた。
「なんかピンとこない。俺は俺でしかないっていうか……」
「でも、そのままじゃダメなんだって」
私は、持ってきたノートを彼に突きつけた。
「『クール』『無口』『ひっそり笑う』『たまに面白いことを言う』──それが結麻ちゃんの好きな人。どういうことかわかる?」
「……俺と正反対?」
「だよね」
それを「正反対」じゃなくする。「そのとおり」を目指す。
つまり──
「『普段からクールにふるまう』『おしゃべりを控える』『笑うときはひっそりと』『たまに面白いことを言う』──これを今日から実行して。そうすれば、結麻ちゃんの好きなタイプに近づけるから」
ほら、これならうまくいきそうでしょ。
なのに、間中くんはますます唇をとがらせた。
「そんなの無理だって」
「そんなことないよ。今から説明するから聞いて」
私は、間中くんに向けてノートをめくってみせた。
「まず『クールにふるまう』だけど、間中くんっていつもニコニコしてるでしょ」
「おう、母ちゃんに『あんたはいつも笑ってなさい』って言われてっから!」
「それをやめる。むしろちょっとムッとした感じにする」
「ええっ!? それ、すげー嫌なやつじゃん」
「そんなことないよ。むしろ、無口でちょっと無愛想なほうが、女子には人気だもん」
中学生になって、綾が好きになった子がそうだった。女子に冷たくて、いつも不機嫌そうな雰囲気をかもしだしていて、なのにそこが「媚びていなくてかっこいい」って綾は力説していた。
「結麻ちゃんも、そういう子のほうが好きなんだよ。だから、間中くんもそっちに路線変更する」
「路線変更……」
「そう、変えるの。『ニコニコ』よりも『むっつり』。おしゃべりも控えめに、笑うときも大声はやめて」
唯一「ボソッと面白いことを言う」だけは、どうすればいいのか私にもわからない。
でも、それ以外は努力でカバーできるはず。
だって、ぜんぜん難しいことじゃない。
「これ、教室に戻ったらすぐに実行してね」
「ええっ、いきなり?」
「善は急げって言うでしょ。絶対! すぐに! やること!」
「いい?」と人差し指を突きつけると、間中くんは視線をさまよわせながらも「おう」とつぶやいた。
きっと、本心では納得していないんだろうな。
でも、大丈夫。成果さえでれば「やってよかった」って思えるから。
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