第3話

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 なのに、間中くんは「うーん」と唇をとがらせた。 「なんかピンとこない。俺は俺でしかないっていうか……」 「でも、そのままじゃダメなんだって」  私は、持ってきたノートを彼に突きつけた。 「『クール』『無口』『ひっそり笑う』『たまに面白いことを言う』──それが結麻ちゃんの好きな人。どういうことかわかる?」 「……俺と正反対?」 「だよね」  それを「正反対」じゃなくする。「そのとおり」を目指す。  つまり── 「『普段からクールにふるまう』『おしゃべりを控える』『笑うときはひっそりと』『たまに面白いことを言う』──これを今日から実行して。そうすれば、結麻ちゃんの好きなタイプに近づけるから」  ほら、これならうまくいきそうでしょ。  なのに、間中くんはますます唇をとがらせた。 「そんなの無理だって」 「そんなことないよ。今から説明するから聞いて」  私は、間中くんに向けてノートをめくってみせた。 「まず『クールにふるまう』だけど、間中くんっていつもニコニコしてるでしょ」 「おう、母ちゃんに『あんたはいつも笑ってなさい』って言われてっから!」 「それをやめる。むしろちょっとムッとした感じにする」 「ええっ!? それ、すげー嫌なやつじゃん」 「そんなことないよ。むしろ、無口でちょっと無愛想なほうが、女子には人気だもん」  中学生になって、綾が好きになった子がそうだった。女子に冷たくて、いつも不機嫌そうな雰囲気をかもしだしていて、なのにそこが「媚びていなくてかっこいい」って綾は力説していた。 「結麻ちゃんも、そういう子のほうが好きなんだよ。だから、間中くんもそっちに路線変更する」 「路線変更……」 「そう、変えるの。『ニコニコ』よりも『むっつり』。おしゃべりも控えめに、笑うときも大声はやめて」  唯一「ボソッと面白いことを言う」だけは、どうすればいいのか私にもわからない。  でも、それ以外は努力でカバーできるはず。  だって、ぜんぜん難しいことじゃない。 「これ、教室に戻ったらすぐに実行してね」 「ええっ、いきなり?」 「善は急げって言うでしょ。絶対! すぐに! やること!」 「いい?」と人差し指を突きつけると、間中くんは視線をさまよわせながらも「おう」とつぶやいた。  きっと、本心では納得していないんだろうな。  でも、大丈夫。成果さえでれば「やってよかった」って思えるから。
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