第3話

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 帰宅後、私は買ってきたばかりの雑誌をめくっていた。  おしゃれ・モテ・モテ・おしゃれ、みたいな、綾が夢中になって隅々まで読んでいそうなやつ。だって、表紙に「今、クール系男子が熱い!」って書いてあったから。  でも── 「ダメだ、つまんなさすぎる」  どんなに読んでも、頭に入ってこない。ちっとも共感できない。  でも、せっかく550円も払ったんだ。何かひとつでもヒントを掴まないと。 「よし、もう一回読もう」  私は、改めて特集ページを開いてみた。 『みんなの知ってる「クール系男子」教えて!』──まずはこの記事からだ。 ──「超モテのI先輩。みんな彼のことを知りたいのに、いつもはぐらかされるから謎は深まるばかり。でも、そこが好き」  なにこれ。  何を聞いてもはぐらかすのは、後ろ暗いことがあるからじゃないの? ──「同じクラスのKくんは、他の男子がワイワイ騒いでいても、見向きもしないで自分の世界に浸っている。まさにクール系」  それ、ただのオタクでは?  それか協調性がないとか。 ──「美術部のJくんは、いつも腕組して窓辺に寄りかかっているんだけど、その顔がすごくクール系」  でも、そういう人が心までクールとは限らないよね?  窓辺に寄りかかりながら「やべー腹減ったー」とか思っているかもしれなくて── 「はぁ……」  ダメだ、やっぱりどのページもピンとこない。  唯一理解できたのは「クール系男子」と間中くんは真逆だということ。  なにせ、クラスで誰かが騒いでいたら「なになに?」って駆け寄るのが間中くんだ。女子に質問されれば、ニコニコしながら聞かれていないことまで答えそうだし、腕を組んで窓辺に寄りかかっていても、すぐに男子に「なにやってんだよ」って声をかけられそう。 (そんな彼が「クール系男子」……)  無理だ。ハードルが高すぎる。  しかも、本人は「演技なんて無理」って半ばいじけてしまっている。 (まいったな)  だんだん面倒くさくなってきた。  やっぱり断ろうかな。  どうせうまくいかないなら、あれこれ考えているこの時間がもったいないし、間中くんも無駄な努力をしたくないだろうし──  なんて考えていたら、勢いよく部屋のドアが開いた。 「友香、電子辞書どこ?」  いやいや、お姉ちゃん。  その前にやるべきことがあるでしょ。 「あのさ、前から言ってるけどちゃんとノックしてからドアを開けて」 「えーいいじゃん、家族なんだし。それより電子辞書貸して。私の、電池が切れたっぽくてさー」  勝手に机をあさろうとしたお姉ちゃんは、ふいに「あれ?」と手を止めた。 「めずらしいね、あんたがそういう雑誌読んでるの」 「ああ、これ……ちょっといろいろあって」  適当に言葉を濁したのに、お姉ちゃんは「えっ」と食いついてきた。 「もしかして、好きな子ができたとか?」 「違う」 「じゃあ、ヘアスタイル特集目当て? それともモテコーデ? 着まわし特集?」  ああ、もう面倒くさい! 「クール系!」 「えっ」 「クール系男子特集!」 「ってことは、あんた、やっぱり……」 「違う! 私が好きなんじゃない!」  恋をしているのは別の人!  私は、アドバイスを頼まれただけ!  思わずそう力説すると、お姉ちゃんはポカンとしたように私を見た。  それから「アドバイス……友香が……」とうわごとのように呟いたかと思うと、 「あははっ、なにそれ!」  いきなり、ものすごい大声で笑い出した。 「無理無理、絶対に無理! 友香に恋のアドバイスなんて、できるわけないじゃん!」  ──は? なんでよ。 「だって恋愛したことないでしょ」 「そんなの関係ない」 「あるでしょ、大有り! 恋愛経験ないくせにどんなアドバイスをするわけ?」 「それは……そういう本を読むとか……」 「出たよ、本! それしかないもんね」  お姉ちゃんの口元に、嫌みったらしい笑みが浮かんだ。 「だって初恋もまだでちゅからねぇ、誰かさんは」  この一言で、私の心に火がついた。
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