第3話

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 数日後の昼休み、私は再び間中くんを書庫に呼び出した。 「これから、間中くんを『クール系男子』にするための作戦を発表します」 「えっ、それまだやんの?」 「やるの! やらないと間中くんの恋は実らないの!」  きっぱりそう断言して、作戦ノートの5ページ目をつきつける。 「すげぇ、文字がいっぱい」 「この数日、手に入るだけの恋愛小説と恋愛漫画を読んで研究したから」 「研究!?」 「いい? 今から説明すること、ちゃんと頭にたたき込んで」  まずは、作戦その1「おしゃべり」の件。 「『無口』はクール系男子の必須条件だけど、間中くんにはちょっと無理だよね」 「ちょっとじゃないって! 絶対に無理!」 「なので、この作戦はもう少し簡単なものにします」  というのも、今回調べてみた結果、クール系男子は必ずしも「無口」じゃないことが判明したんだ。 「で、彼らと間中くん、何が違うのかなって考えてみたんだけど……要は雰囲気なんだよね」 「はあ……ふいんき……」 「違う、『ふんいき』。なんていうかね」  彼らは「騒がしくない」し「よけいなおしゃべり」をしない。その名のとおり、おしゃべりするときのたたずまいが「涼しげ」なのだ。 「だから、おしゃべりは許可する。けど、声のテンションをおさえてほしいんだ」 「え、どういうこと?」 「たとえばだけど、間中くんって『佐島、佐島、佐島ぁっ』ってよく連呼するでしょ。あれはダメ。呼ぶときは、ちょっと落ち着いた声で『佐島』──ハイ」  どうぞ、と手を向けると、間中くんは「今やるの!?」とのけぞった。 「当然でしょ、名前を呼ぶだけなんだから」 「うっ、でも……」 「ごちゃごちゃ言わない! ほら、やってみて!」 「えっ……ええと……『佐島』!」 「声大きすぎ」 「ええっ!? じゃあ……『佐島』……?」 「疑問形にしない!」 「『佐島』……」 「もう少し低い声で!」 「『佐島』……」 「……今のでギリギリ合格かな」 「ギリギリ!?」 「でも、ちゃんとできたでしょ」 「まあ、うん」 「ってことで、今後はさっきくらいのトーンで女子とおしゃべりをすること」 「男子とは?」 「できれば男子ともそうしてほしいけど……難しそうだから女子限定でいいや。でも、少しずつ男子ともそうできるように努力して」 「……わかった」  よし、これで作戦1の説明は終わった。 「次、作戦その2」
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