第3話

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 結麻ちゃんを振り向かせるための作戦その2──  クール系男子の特徴のひとつに「近寄りがたい雰囲気」がある。 「なんか『話しかけにくい雰囲気』っていうのかな。気軽に声をかけられない子っているじゃん」 「あ──うちのクラスだと()(なみ)とか?」 「そう、名波くん。あの子、ちょっと声かけにくいじゃん」 「話すといいやつなんだけどなぁ。なんか誤解されてるよなぁ」 「それ! 誤解!」 「……へ?」 「作戦2のキーワード」  クール系男子がもつ「近寄りがたい雰囲気」は、間中くんと真逆のものだ。  そんな雰囲気を出せといわれても、彼には無理だろう。  でも── 「それっぽい雰囲気は出せると思うんだ」 「どうやって?」 「まず、たまにでいいから休み時間をひとりで過ごす」 「えー無理……」 「1日1回でいいから。で、そのとき頬杖ついてボーッとするの。こんなふうに」  脚立に腰かけて、私は実際にやってみせた。 「顔の角度はこれくらい、目線は窓の外か机の前方。唇は開けているとバカっぽく見えるから必ずちゃんと閉じること」 「うっ……俺、つい口あけちゃう」 「それはダメ。絶対禁止!」  間中くんが口をあけてぼんやりしていたら「お腹がすいているのかな」としか思えない。 「大事なのは『物思いにふけっているな』って思わせること。そんなふうに誤解……っていうか、勘違いさせるの」  べつに頬杖つきながら「お腹すいたー」って思っていてもいいんだ。声に出さなければ、バレやしないんだから。  なのに、間中くんは「んー」と渋い顔つきを崩さない。 「……なに? 納得いかないことでもある?」 「そうじゃねーけど……なんかその作戦、すげー難しそうっていうか」  間中くんは、がしがしと頭を掻いた。 「この間もそうだったけどさ、俺がひとりでボーッとしようとしても、絶対誰かが話しかけてくるじゃん?」 「そうだね、間中くん人気者だもんね」  でも、大丈夫。  今回は「魔法の言葉」を考えてきたから。 「そのときはこう答えればいいよ。──『なんでもない』」 「なんでもない?」 「そう。『マナ、どうした?』って声をかけられても『なんでもねーよ』って。できればちょっと微笑む感じでね」  そう、これこそが「クール系男子」の常套(じょうとう)手段。  この返答で、たいていの相手は「そっか」っていったん引き下がる。なのに、どういうわけか、みんなその言葉どおりには受け取らない。 「人間って想像力があるでしょ? だから『なんでもない』って言われると、かえってあれこれ想像しはじめるんだよね」  特に女子は、あれこれ勘繰って勝手に想像しがちだ。 「だから、敢えて何かありそうな雰囲気で『なんでもない』って言うの。そうすれば、周囲は『そんなこと言って、本当は何かあるんじゃない?』とか『誰にも打ち明けられないような悩みでもあるんじゃない?』って考えはじめるってわけ」  ちなみに、このパターンの恋愛小説や恋愛漫画、私が読んだだけでもざっと10冊はあった。  つまり、これって「王道展開」じゃないのかな。 「だから、間中くんは1日に1回、口を閉じてボーッとしていればいいの。で、話しかけられたら『なんでもない』って繰り返せばいいの」 「はぁ……」 「大丈夫、これならいける……絶対うまくいくから!」
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