第3話

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 実践の場はすぐに訪れた。  翌日、3時限目前の休み時間。  間中くんが作戦どおり頬杖をついてぼんやりしていると、坂田くんが「ん?」と彼のそばにやってきた。 「なんだよ、マナ〜。今日はおとなしいじゃん」 「……べつに」 「いやいや、おとなしいって。なんかあった?」 「……なにも」 「うそうそ。絶対なんかあっただろ」 「ないって」 「腹減った? 宿題忘れてきた?」 「なにもない」 「わかった! 昨日サッカー部で監督に怒られたんだろ!」 「なにもないって」  さすがの迷惑スピーカーも、ここまで否定されれば引っ込むしかないらしい。 「ええと、ええと」と気まずそうに周囲を見まわしたあと、 「あっ、山ちゃん! 昨日の『つくばチャンネル』の……」 (……やった!)  撃退成功!  前回失敗したことを、間中くんはちゃんとクリアできた。坂田くんに振りまわされることなく、最後まで「クール系男子」のふりをやりきったのだ。  もちろん、だからといって今すぐ何かが変わるわけじゃない。 (でも、これを続けていれば、きっと……) と、間中くんがくるりとこちらを振り向いた。 (あ……)  満面の笑みを浮かべてのVサイン。  バカ、誰かに見られたら全部台無しじゃん。  すぐさま頬杖のジェスチャーをして「前を向け」と指示を出す。間中くんはハッとしたように、慌てて前に向き直った。 (バカ、ほんと単純なんだから)  けど、胸の奥がちょっとそわそわしている。  うまくいって嬉しかったのは彼だけじゃない、私だって同じなのだ。
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