第3話

10/14
前へ
/74ページ
次へ
 さて、いきなりだけど時間が飛ぶ。ざっと一ヶ月くらい。  なぜかって?  この一ヶ月で、間中くんにモテ期が到来したからだ。  もちろん私が授けた作戦がうまくいったおかげ。  とはいえ、すんなりうまくいったわけじゃない。  最初の1週間はなんの変化もなくて「この作戦、ほんとに意味あんの?」と愚図る間中くんを言いくるめるのに苦労したくらいだ。  でも、2週間経ったあたりから周囲の反応が変わりだした。  ぼんやり頬杖をつく間中くんを、チラチラ気にする女子が数名。 ──「間中って、最近雰囲気変わったよね」 ──「なんかちょっと大人っぽくなったよね」  そんな噂が、私の耳にまで届くようになったのが3週間ほど経過したころ。  ひとりで行動することが多い私の耳にまで入ってきたんだから、評判はかなり広まっていたんだろう。  さらに、その週、球技大会があった。もともとスポーツが得意な間中くんは、バレーボールで大活躍。 「間中くーん、がんばれ!」 「間中―っ、負けるなーっ」  そんな声援にも、以前の彼なら「おう!」と満面の笑顔で拳を振りあげていたはずだ。  でも、今の彼は違う。男子からの声援には笑顔で答える一方で、女子からの声援にはチラッと会釈をするだけ。  そのせいで応援席のテンションはおかしな感じに盛りあがった。 「やばい、今のドキドキした」 「間中ってあんな感じだったっけ?」 「テレてるのかな。なんか可愛いよね」 「わかる! かわいい」  まさかの「かわいい」評価。クール系男子とはまるで真逆。  とはいえ、よくよく聞いていると決して悪い感じじゃない。彼女たちが口にした「かわいい」は、あくまで「女子に媚びない男子が、照れくさそうにしている」という点においてのよう。つまり「クール系男子」がもつギャップとしての「かわいい」なのだ。 「そういえば、間中って最近よく考え事してるよね」 「それ! ちょっとため息ついたりして!」 「なにか悩みでもあるのかな」 「え……もしかして好きな子がいるとか?」 「うそ! だれだれ!?」  そんな感じで応援席が盛り上がっているなか、間中くんがバシコーンっとスパイクを決めたりするから、女子のテンションは最高潮。  それにつられたように他のクラスの女子まで注目しはじめて、ついに間中くんにモテ期が到来したというわけなのだ。 (あ、また来てる……)  隣のクラスの「かわいい」って人気の女子たち。頬杖ついてる間中くんを見て、嬉しそうにコソコソ話してる。  さしずめ── ──「いたよ! ほら、あそこ」 ──「やっぱりカッコいいよね」 ──「女子と気軽に喋らない感じがいいよね」 ──「わかる! そういう子のほうがいいよね」 といったところだろうか。 (いやいやいや)  その人、一ヶ月前までふつうに女子と喋ってましたから。なんなら今でもふつうに喋りたいと思っていますから。 (もともと人懐っこいんだよね、間中くんって)  なにせ、クラスでも浮き気味の私に気軽に話しかけてくるような人だ。「友達百人できるかな」を地でいくタイプなのだ。 (でも、そういうところを知られたらモテ期終了なんだよね)  気軽に話すことのできる男子は、女子の間ではいまいち評価が低い。「仲間」とか「友達」として高評価なんだけど、どうしても「恋愛相手」としては下に見られがちだ。 (クール系男子が人気って本当なんだな)  つまり、私の作戦は大成功。あとはどのタイミングで、間中くんを結麻ちゃんに紹介するかだ。 (もう少し、クール男子っぽさが身についてからがいいかな)  油断するとすぐに素に戻ってしまうし、結麻ちゃんの前だとへんに舞いあがっておかしなことになりそうだし。 「トモちゃん」  控えめな声が、私の思考をさえぎった。  いつのまにか(あや)が私の隣に立っていた。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加