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綾は、やけにモジモジしながら「あの、ええと」を繰り返している。
「……何? 何の用?」
また先生からの言付け?
それとも──面白い本を見つけた、とか?
ふわん、とささやかな期待が私のなかに芽生える。
けれども、綾が口にしたのは
「間中くん……」
「えっ?」
「トモちゃん、間中くんと仲よかった……よね?」
生まれたばかりの期待は、パチンと弾けて消えてしまった。
「たまにふたりで話してるし、廊下でふたりが一緒にいるとこ見たって子もいるし」
「……それが何?」
「あの、私、他の子に『聞いてきて』って頼まれて……トモちゃん、間中くんと付き合ってるのかなって……」
「付き合ってない」
「じゃあ、好き……とか」
「好きじゃない。ただの友達」
「……本当に?」
念押しされて、カチンときた。
よりによって綾がそれを聞くのか。
「あのさ、綾は知ってるよね? 私が恋愛とかに興味ないってこと」
「で、でも……」
「恋とかじゃない。そんなんじゃない」
私は、ただ悩み相談にのっているだけ。綾たちと一緒にしないでほしい。
苛立ちのまままくしたてると、綾はまた小さな声で「ごめんなさい」とうつむいた。
「でも、あの……あのね……」
「何?」
「もし、その……恋してるなら……また話ができるかと思って」
──え?
「トモちゃんと、前にみたいに……話せるかなと思って」
「……」
「ごめんなさい……」
もう一度小さな声で謝って、綾は私から離れていく。
私は、どんな顔をすればいいのかわからなくて──ただ窓の外に目を向けた。
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