第3話

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「サボってるわけないだろ。毎日ちゃんとやってるぞ、こういうやつ」  書庫で、間中くんはトレーニングを実践してみせた。意外にも、それは私にでもできそうな簡単なものだった。 「それさ、本当に効果あるの?」 「ん?」 「そのトレーニングをやっていて、本当に瞬発力って身につくの?」  昨日ずーっと2番にくっつかれたままだった間中くん。  あれって効果が出ていないからなのでは? 「んーわかんない」 「えっ」 「トレーニングの効果が出るのって、もっとずっと後みたいだし」 「ずっと後って?」 「さあ……半年後とか?」 「半年!?」  それって気長すぎない? もし、万が一トレーニングの効果が出なかったら、間中くんは半年間を無駄にしたことになるよね?  なのに、間中くんは「そうかなー」とのんきに首を傾げている。 「無駄かどうかって、やってみないとわかんねーし」 「それはそうだけど……」 「それに、もし効果が出なかったとしても無駄になるとは限らねーじゃん?」  え、どういうこと? 「なんかさ、もしかしたら他のとこでいいことがあるかもしれねーじゃん」 「他のって?」 「それは……わかんねーけど」  たださ、と間中くんは話をつづける。 「俺、実は昔、ピアノやってたの」 「……へっ?」 間中くんが? ピアノ? 「ばあちゃんがピアノ教室をやってて、それで俺も幼稚園のころから習いにいかされてさ。しかも『上達するには毎日練習しないと』って、1日1時間、毎日びっしり練習させられてた!」 「……でも、今はもうやってないよね?」 「サッカーと両立できなくてやめた! それに、いっぱい練習してもいまいちうまくならなかったし」  それは、ちょっと納得。  間中くんとピアノってそもそもうまく結びつかないし。 「でも俺、ピアノ習ってたこと無駄になったとは思わない」 「えっ」 「ピアノ習ってたから、いろんな曲を知れた。好きな曲もいっぱいできた。ちなみに、俺が一番好きなのは、モーツアルトの『アイネクライネナハトムジーク』。……知ってる? こういうやつ」  ターンタ、ターンタ、タタタタターン、と彼は楽しそうに歌い出す。 「他にも気に入ってる曲いろいろある。だから無駄じゃない。上達できなくても、習ってよかったって胸張って言える!」  だから、トレーニングもきっと無駄じゃないって!  間中くんは、笑顔でそう言い切った。なんの迷いも疑いもないように。 (すごいな)  そんなの、私には無理だ。  努力がむくわれなかったら、きっと「なんて無駄な時間だったんだろう」ってめちゃくちゃ後悔しそうだ。 (だから、恋だって……)  中学生の恋なんて、無駄に終わるだけだって思ってきたのに。 「あのさ、ひとつ確認してもいい?」 「おう」 「もし、これから先、間中くんと結麻ちゃんがお付き合いできたとして」 「おう!」 「でも、たとえば、その……高校生くらいになって別れたとするでしょ」 「えっ、別れねーよ! 絶対別れねぇ!」 「だから『例えば』だって! もしもの話」  頑張って努力して、お付き合いできて、でも結局は結婚する前に別れることになったとしたら? 「それでも、間中くんは『無駄じゃない』って言いきれる?」
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