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「サボってるわけないだろ。毎日ちゃんとやってるぞ、こういうやつ」
書庫で、間中くんはトレーニングを実践してみせた。意外にも、それは私にでもできそうな簡単なものだった。
「それさ、本当に効果あるの?」
「ん?」
「そのトレーニングをやっていて、本当に瞬発力って身につくの?」
昨日ずーっと2番にくっつかれたままだった間中くん。
あれって効果が出ていないからなのでは?
「んーわかんない」
「えっ」
「トレーニングの効果が出るのって、もっとずっと後みたいだし」
「ずっと後って?」
「さあ……半年後とか?」
「半年!?」
それって気長すぎない? もし、万が一トレーニングの効果が出なかったら、間中くんは半年間を無駄にしたことになるよね?
なのに、間中くんは「そうかなー」とのんきに首を傾げている。
「無駄かどうかって、やってみないとわかんねーし」
「それはそうだけど……」
「それに、もし効果が出なかったとしても無駄になるとは限らねーじゃん?」
え、どういうこと?
「なんかさ、もしかしたら他のとこでいいことがあるかもしれねーじゃん」
「他のって?」
「それは……わかんねーけど」
たださ、と間中くんは話をつづける。
「俺、実は昔、ピアノやってたの」
「……へっ?」
間中くんが? ピアノ?
「ばあちゃんがピアノ教室をやってて、それで俺も幼稚園のころから習いにいかされてさ。しかも『上達するには毎日練習しないと』って、1日1時間、毎日びっしり練習させられてた!」
「……でも、今はもうやってないよね?」
「サッカーと両立できなくてやめた! それに、いっぱい練習してもいまいちうまくならなかったし」
それは、ちょっと納得。
間中くんとピアノってそもそもうまく結びつかないし。
「でも俺、ピアノ習ってたこと無駄になったとは思わない」
「えっ」
「ピアノ習ってたから、いろんな曲を知れた。好きな曲もいっぱいできた。ちなみに、俺が一番好きなのは、モーツアルトの『アイネクライネナハトムジーク』。……知ってる? こういうやつ」
ターンタ、ターンタ、タタタタターン、と彼は楽しそうに歌い出す。
「他にも気に入ってる曲いろいろある。だから無駄じゃない。上達できなくても、習ってよかったって胸張って言える!」
だから、トレーニングもきっと無駄じゃないって!
間中くんは、笑顔でそう言い切った。なんの迷いも疑いもないように。
(すごいな)
そんなの、私には無理だ。
努力がむくわれなかったら、きっと「なんて無駄な時間だったんだろう」ってめちゃくちゃ後悔しそうだ。
(だから、恋だって……)
中学生の恋なんて、無駄に終わるだけだって思ってきたのに。
「あのさ、ひとつ確認してもいい?」
「おう」
「もし、これから先、間中くんと結麻ちゃんがお付き合いできたとして」
「おう!」
「でも、たとえば、その……高校生くらいになって別れたとするでしょ」
「えっ、別れねーよ! 絶対別れねぇ!」
「だから『例えば』だって! もしもの話」
頑張って努力して、お付き合いできて、でも結局は結婚する前に別れることになったとしたら?
「それでも、間中くんは『無駄じゃない』って言いきれる?」
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