第3話

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 私としては、わりと重要な問いかけ。だって、昨日からずっとこのことが頭にあったから。  間中くんは「んー」と大きな目を瞬かせた。いちおう彼なりにまじめに考えてくれているみたいだ。  1分……2分……3分経過。  ようやく彼の口から出てきた答えは── 「わかんない! その『もしも』が想像できない!」 「いや、だから……」 「うまくいったら俺は絶対に別れない! それしか言えない!」  ──ダメだ、話が通じない。  けど、まっすぐピカピカな間中くんの目を見ているうちに「ああ、うん……」みたいな気持ちになった。  だって、これはこれで彼らしいじゃないか。  あれこれごちゃごちゃ考えない、「やる」と決めたことだけに集中する。「トレーニングの効果がでなかったら」「せっかく付き合ってもいつか別れたら」──そんなの、彼には本当にどうでもいいことなのだ。  だったら、話は簡単だ。 「私は、力を貸すだけだね」  これまでどおり──ううん、これまで以上に。  この件について、先のことをあれこれ考えるのはやめた。だって、依頼者が気にしないって言ってるんだ。これ以上、私が頭を悩ませるのはそれこそ「時間の無駄」だ。  よし、改めて── 「頑張ろうね」  私が差し出した右手を、間中くんは「おう」と握りかえした。  そして、ニパッと笑った。 「こっちこそ、よろしくな! 佐島のこと、すっげー頼りにしてっから」  ──あれ? こんな感じだったっけ、間中くんの笑顔って。  まるで、夏のひまわりが花開いたときみたいな?  あるいは、夜空に大きな花火が弾けたときみたいな?  ああ、でも、そうだったかもしれない。今は封印しているから、忘れかけていただけで。 (そうだ、それだけだよ)  久しぶりに見たから、ちょっとびっくりしただけ。  やけに早い鼓動にそう言い訳して、私は「うん」とうなずいた。  理由なんて、それ以外にまるで思いつかなかった。
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