第4話

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第4話

 球技大会が終わると、2学期の中間テストが待っている。  けれども、周囲の話題はもっぱら来月の文化祭についてだ。みんな、テストのことはどうでもいいのかな。私なんて、先週から復習の時間を1時間増やしているのに。  とはいえ、ちゃんと集中して勉強できているかというと自信はない。  最近、私の身の上に困ったことが起きているのだ。 「はぁぁ……」  抱えた膝に、おでこをうずめる。  ちなみに今は体育の時間。女子は体育館の半分を使ってバレーボール、男子は残りの半分でマット運動の真っ最中だ。  少し離れたところから、小さな歓声が聞こえてきた。男子の授業をこっそり見ている子たちだ。なにせ、仕切りになっているのはカーテン式のネット1枚。当然、気になる男子がいる子たちは、ネットの向こうに釘付けなわけで── 「あ、次だよ、次」 「すごい……今の飛び込み前転だったよね!?」 「ちょっと! 坂田ジャマすぎ! 名波くんが見えないじゃん」  ヒソヒソコソコソ続くおしゃべり。  まあ、女子はチームに分かれて試合中だから、コートに入っていない間はヒマではあるけれど。 「……きた、次、間中だ」 「間中くん、こういうの得意そうだよね」  振り向くかわりに、耳をそばだてた。  堂々とネットの向こうを見ている子たちが「うわっ」とはしゃぐような声をあげた。 「すごい……今の、倒立前転だっけ」 「間中やばい、ほんとかっこよすぎ!」 「しかもさ! サラッとやっちゃうじゃん」 「これが西原とか大木だったら、絶対『俺カッコいいだろ?』みたいな顔するんだよね!」 「それそれ! 菅野とかもさ、すぐに『俺すげー!』って大声出したりして」 「あいつらマジでウザすぎ」  ──なるほど、そのあたりも「クール系男子」が好かれる理由なのか。  少しわかる気がする。たしかに、体育ができる程度で自慢げな男子は、私から見てもうっとおしい。  でも、本来間中くんはそっちタイプの人だ。私の作戦がなければ、今ごろ拳をふりあげて「見た見た? 俺、すごくね?」って大騒ぎしているはず。 「はーい、次はBチーム、コートに入って!」  先生の声に、おしゃべりしていた女子たちはようやくバレーコートに向き直った。  私も同じBチームなので、渋々コートに入るべく立ち上がった。その際、ネットの向こうに目を向けたことについては特に意味はない。ちょっとした「ついで」みたいなものだ。  なのに、私の目はピンポイントで間中くんをとらえる。 (笑ってる……)  どうやら隣で肩を組んでいる坂田くんが、間中くんの脇腹をくすぐっているらしい。彼は身体をよじりながら「やめろって」と大口をあけて笑っている。 (クール系男子崩壊……)  ここは、作戦をさずけた私としてはイエローカードを出すべきところ。  たしかに「男子の前では今までどおりでいい」とは言ったけど、これはさすがに笑いすぎだ。今回は他の女子たちに気づかれなかったから良かったけど、もし見られていたらせっかくの「新しい間中くん」が台無しになってしまう。  次の作戦会議のときに注意しなければ──そう、頭ではちゃんとわかってる。  なのに、なぜか気乗りしない。  それどころか、ジッと間中くんを見つめてしまう「私」がいて── 「佐島さん、なにやってんの! 早くコートに入って!」  先生の声で我に返った私は、慌ててバレーコートに駆け込んだ。  やばい。気まずい。  私ってば何をやっているんだろう。  ネットの向こう、Cチームの綾と一瞬目が合った気がして、私はすぐさま顔を背けた。 (最悪、授業中なのに)  でも、これこそが最近私を悩ませていること。  間中くんが笑っていると、つい見てしまう。  目が、勝手に彼の笑顔をとらえてしまう。  これはどういうことなのか。  なぜ、私は彼の笑顔に注目してしまうのか。
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