第4話

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 そんなもんもんとした気持ちを抱えたまま、私は昼休みの廊下を歩いていた。 (ダメだ、何度考えてもわからない)  わからないから気持ちが悪い。解けない謎を抱えるのって、思っていた以上にストレスなんだ。  でも、これから間中くんと作戦会議だし、ちゃんと「いつもの私」に戻らないと。  重たい気持ちのまま、書庫の鍵を開ける。  ひとまず気持ちを落ちつけようと、持ってきた本の表紙をめくってみた。  ひとりの地味な女子高生が、学校の謎を解決していく学園ミステリー。今回はプレハブ校舎の謎に挑むみたいだ。  いつもなら冒頭の数行を読んだだけで、物語の世界に入ることができる。特に、このシリーズはテンポがいいからあっという間に没頭できるはずなのだ。  なのに── (だめだ、頭に入ってこない)  目が、文字の上をすべるように流れてしまう。本と目と頭が完全に切り離されてしまっているみたいだ。 「最悪……」  発売日当日に買うほど楽しみにしていた、シリーズ最新作なのに。  悔しくてもうしばらく粘ってみたものの、結局文字が通りすぎていくばかりだったので、私はあきらめて表紙を閉じた。 (間中勇め)  もういっそ誰か教えてほしい。  なぜ、私は彼の笑顔を見てしまうのか。  なぜ、笑っている彼をとがめる気になれないのか。  きっかけはわかっている。少し前にここで目撃した「アレ」だ。 ──「こっちこそ、よろしくな! 佐島のこと、すっげー頼りにしてっから」  あのとき目にした、間中くんの笑顔。  あれ以来、なぜか目が勝手に彼の笑顔を拾いあげてしまう。  最初は、笑っている彼を見るのが久しぶりだからだと思っていたけれど、こうも続くと話は別だ。 「悪い、佐島!」  ようやく書庫の扉が開いて、間中くんが入ってきた。 「待たせたよな、ごめん!」 「えっ、ああ……うん……」  慌てて腕時計を確認する。たしかに、約束していた時間を10分も過ぎていた。 「なにかあったの?」 「あったっていうか……なんか呼び出された」 「誰に?」 「隣のクラスの女子」  ああ、なるほど。 「また告白? 最近ほんとすごいよね」  しかも「隣のクラスの女子」ってことは、たぶんよく教室を覗きに来ていた子たちだ。かわいいって評判の、うちのクラスの男子にも人気の3人組。  なのに、間中くんの表情はパッとしない。 「どうしたの? なんか嫌なことでもあった?」  間中くんは「そうじゃねぇけど」って目を伏せた。  それからしばらく黙り込んだかと思うと、やがて重たそうに口を開いた。 「なんか、告白されるのって……あんまり嬉しいもんじゃねーのな」
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