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そんなもんもんとした気持ちを抱えたまま、私は昼休みの廊下を歩いていた。
(ダメだ、何度考えてもわからない)
わからないから気持ちが悪い。解けない謎を抱えるのって、思っていた以上にストレスなんだ。
でも、これから間中くんと作戦会議だし、ちゃんと「いつもの私」に戻らないと。
重たい気持ちのまま、書庫の鍵を開ける。
ひとまず気持ちを落ちつけようと、持ってきた本の表紙をめくってみた。
ひとりの地味な女子高生が、学校の謎を解決していく学園ミステリー。今回はプレハブ校舎の謎に挑むみたいだ。
いつもなら冒頭の数行を読んだだけで、物語の世界に入ることができる。特に、このシリーズはテンポがいいからあっという間に没頭できるはずなのだ。
なのに──
(だめだ、頭に入ってこない)
目が、文字の上をすべるように流れてしまう。本と目と頭が完全に切り離されてしまっているみたいだ。
「最悪……」
発売日当日に買うほど楽しみにしていた、シリーズ最新作なのに。
悔しくてもうしばらく粘ってみたものの、結局文字が通りすぎていくばかりだったので、私はあきらめて表紙を閉じた。
(間中勇め)
もういっそ誰か教えてほしい。
なぜ、私は彼の笑顔を見てしまうのか。
なぜ、笑っている彼をとがめる気になれないのか。
きっかけはわかっている。少し前にここで目撃した「アレ」だ。
──「こっちこそ、よろしくな! 佐島のこと、すっげー頼りにしてっから」
あのとき目にした、間中くんの笑顔。
あれ以来、なぜか目が勝手に彼の笑顔を拾いあげてしまう。
最初は、笑っている彼を見るのが久しぶりだからだと思っていたけれど、こうも続くと話は別だ。
「悪い、佐島!」
ようやく書庫の扉が開いて、間中くんが入ってきた。
「待たせたよな、ごめん!」
「えっ、ああ……うん……」
慌てて腕時計を確認する。たしかに、約束していた時間を10分も過ぎていた。
「なにかあったの?」
「あったっていうか……なんか呼び出された」
「誰に?」
「隣のクラスの女子」
ああ、なるほど。
「また告白? 最近ほんとすごいよね」
しかも「隣のクラスの女子」ってことは、たぶんよく教室を覗きに来ていた子たちだ。かわいいって評判の、うちのクラスの男子にも人気の3人組。
なのに、間中くんの表情はパッとしない。
「どうしたの? なんか嫌なことでもあった?」
間中くんは「そうじゃねぇけど」って目を伏せた。
それからしばらく黙り込んだかと思うと、やがて重たそうに口を開いた。
「なんか、告白されるのって……あんまり嬉しいもんじゃねーのな」
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