第4話

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 意外な言葉に、私は思わず「えっ」と声をあげてしまった。 「なんで? 好きって言われたんでしょ?」  それって、ふつうの子たちにとっては嬉しいことなんじゃないの?  疑問だらけの私に、間中くんは「でもさ」と唇をとがらせた。 「好きって告白されたら、断らなければいけねーじゃん?」 「そうだね」  間中くんが好きなの、結麻ちゃんだもんね。 「それがすげーストレスっつーか」 「……どういうこと?」  断るって「好きです、付き合ってください」「ごめんなさい、付き合えません」──たったそれだけのことだよね?  私の指摘に、間中くんは「違う!」とじれったそうに吠えた。 「それは『付き合えません』『そうですか』で終わった場合!」 「終わらないの?」 「終わらない! 絶対『なんで?』って聞かれる!」  ああ──なるほど。 「で、『好きな人がいるから』って答えれば『相手は誰?』って聞かれるし。『答えたくない』って言うと、また『なんで?』って聞かれるし。下手すれば泣かれることもあるし」 「それは……たしかに大変そうだね」 「だろ? 佐島もそう思うよな?」  けどさ、と間中くんは床の上に座り込んだ。 「やっぱり『ごめん』って言うのが一番キツい。そういうの、俺が池沢先輩に言われたらって思うと──すげー苦しい」  ──なるほど。  どうやら、間中くんは、彼女たちと自分を重ね合わせているらしい。  体育座りで丸くなっているその背中に、私は思いきりため息をぶつけた。 「だったら告白してきた子たちと付き合えば?」 「それは無理。池沢先輩以外とは付き合えない」 「じゃあ、仕方ないよね。苦しい思いをさせるのも」  相手の想いを受けとれないならどうしようもない。間中くんがどんなに頭を悩ませたところで、彼女たちが苦しさから逃れられることはないのだ。 「それに悪いことじゃないよ。ちゃんと断るのって」 「どうして?」 「だって、ダラダラ続く片想いなんて時間の無駄でしょ」  まあ、私は中学生の恋愛そのものが無駄だと思ってるけど。  それでも「恋したい!」っていうなら、せめて「叶う恋」に時間を費やせばって思うんだ。試験で例えると「両想い」は合格、「片想い」は不合格ってことだろうし。 「間中くんは『無駄なことはない』ってタイプの人だからピンとこないかもしれないけど、みんながみんなそうじゃないわけだし。私からすれば、むしろはっきり『ごめん、付き合えない』って断ってくれるのって悪くないよ」  アドバイス、というほどでもない。ただ単に、私の考えを口にしただけのこと。  なのに、間中くんは「そっか」とようやく頬をほころばせた。 「わかった、ありがとな! 佐島のおかげでちょっと気が楽になった!」  ──これだ。この笑顔だ。  私を惑わせる諸悪の根源。  あ、「諸悪」っていうのは「悪い出来事」のこと。で「根源」は「物事のもとになっているもの」って意味ね。  つまり、この笑顔こそが、私を悩ませている一番の原因ってわけだ。 (なんで、こんなに気になるんだろう)  ただの「笑顔」なのに。  特別かっこいいわけじゃないのに。  そんなことをウダウダ考えていたら、すぐそばで「なあ」って声がした。 「佐島? なにボーッとしてんの?」 「……っ、なんでもない! ちょっと考え事をしてただけ!」  ていうか近い! そんな近距離で顔を覗き込まないで!  大慌てで距離をとると、私は軽く咳払いをした。 「じゃあ、そろそろ今日の作戦会議をはじめようと思います」 「おう! なにやんの?」 「今日は、間中くんにもっとクール系男子になってもらうために、テキストを用意しました」  私は、隠し持っていたA4のクリアファイルを突き付けた。
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