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ところが、そんなふうに思っていたのは、どうやら私だけだったらしい。
この一週間で、間中くんの人気は上昇に上昇を重ねた。新人戦決勝の応援にいった吹奏楽部の子たちが、熱い視線を送りはじめたせいだ。
今も、たった10分の休み時間なのに──
「いた……ほら、あの真ん中の席!」
「やっぱりカッコいいね」
「サッカーやってるとこもめちゃくちゃカッコよかったよね」
すごいな、わざわざ他のクラスから見に来るなんて。
しかも、ざっと数えただけで5人はいる。教室の出入口が広かったら、もっとたくさん集まっていたりして。
「頬杖ついてる……なに考えてるのかな……」
「サッカーのことでしょ」
「だよね、エースだもんね。やっぱ、そうなるよね」
どうだろう。間中くんはたしかにサッカーバカだけど、それだけじゃない。好きな人も、ちゃんといるわけだし。
「カノジョのことだったりして」
「えっ、カノジョいるの?」
「わかんない。今のところ聞いたことないけど……」
「いてもおかしくないよね」
「間中くん、カッコいいもんねー」
いてもおかしくない、か。
すごいな。私が、間中くんから相談を受けたばかりのときは「俺が恋愛の話なんかしたら、みんなに笑われる」って悩んでいたのに。
「あとさ、ちょっと久住くんっぽくない?」
「ああ、漫画の?」
「わかる! 久住くんと雰囲気似てるよね!」
そりゃ、さんざん特訓しましたから。
びしばし鍛えあげましたから。
でもなんだろう、この感じ。
せっかく作戦がうまくいっているのに、あまり嬉しくないというか。うっかり「違う!」って叫びそうになるというか。
そんなすっきりしない気持ちを抱えているうちにチャイムが鳴り、間中くん目当ての女の子たちは自分たちの教室に戻っていった。
すぐに先生が入ってきて、国語の授業がはじまる。名波くんのボソボソした詩の朗読を聞きながら、私はそれとなく教室の真ん中に目を向けた。
間中くんは、まだ頬杖をついていた。顔も、窓の向こうに向けられたままだ。
なにやってんの。ちゃんと授業を聞きなよ。
けど、今の間中くんならこういう仕草も「カッコイイ」って好意的に受けとめられるんだろう。実際、隣の席の中村さんはさっきからチラチラと間中くんの様子をうかがっている。
目論見どおり──そうだ、こういうのを私は狙っていた。
ボンヤリしているだけで「カッコイイ」と思われるクール系男子。そうなれるように作戦をたてて、間中くんを引っ張ってきたはずなのだ。
なのになんだろう、このすっきりしない感じは。
と、それまで窓の外を眺めていた間中くんが、いきなりぶるりと頭を振った。まるで何かを振り払うみたいな仕草。どうしたんだろう、授業中にそんなことをして。
怪訝に思いながらも様子をうかがっていると、間中くんはふらりと立ち上がった。
「先生、ほけ……」
「うん? どうした、間中」
「先生、俺、保健し……」
言葉は、途中で途切れた。ぷつりと糸が切れたみたいに、間中くんはその場に倒れ込んだ。
椅子の倒れる派手な音。中村さんや、他の女子たちが驚いたように悲鳴をあげた。
「おい、どうした? 大丈夫か!?」
「……」
「間中!?」
周囲は騒然となり、もはや授業どころではなくなった。保健委員が呼ばれたものの、小柄な女子だったため、先生が間中くんをおんぶして保健室につれていくことになった。
残された私たちは、先生が戻ってくるまで自習を言いつけられた。
けど、こんな状況でそんなの守る人なんているわけがない。
「なになに、なんで倒れたの!?」
「貧血!? もっとすげー病気!?」
「そういえば最近のマナ、元気なかったよな」
まさに蜂の巣をつついたような状態。
私は、そのどれにも加わらなかった。ただ心臓がへんな感じにバクバクしていた。
怖い。なんだか怖い。
間中くん、一体どうしちゃったんだろう。
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