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「それで、気づいたら熱を出して倒れていた……と」
これは、ちょっと予想外。
たしかに、間中くんの様子がおかしくなったのは、結麻ちゃんと会ったあとからだ。でも、まさかあのとき、そんなことで頭を悩ませていたなんて。
「じゃあ、ええと……私なりにアドバイスするけどさ」
まず、さっき間中くん自身も言っていたように「知ってもらうキッカケ」と「好きになってもらうキッカケ」はたぶん違う。「大きな声」の間中くんは、結麻ちゃんの興味を引くことはあっても「好きになってもらうキッカケ」にはならないはずだ。
「だから、そこは難しく考えなくていいよ。これまでどおり『クール系男子』を目指せばいいと思う」
「じゃあ、試合でゴール決めたときは?」
「それは……まあ、クール系男子っぽいリアクションすればいいんじゃない? さり気なくガッツポーズするとか、『シュート決めて当然』みたいな澄ました顔をするとか」
「それって、こんな感じ?」
間中くんが、控えめにガッツポーズしてみせる。
「うん、まあ……いいと思う」
「……え、なんか歯切れ悪くね?」
「そんなことないって!」
そう、今のリアクションなら問題ない。
ちゃんと「クール系男子」らしさを維持できるはず──
なのに、私は間中くんの大きな目を見返すことができない。
本当に? 本当にこのアドバイスでいいの?
そんな不安が、頭のどこかでチラチラして──
「……っ」
ダメだ。私が自信なさげにしていたら、きっと間中くんも迷ってしまう。
今だって、不安そうに私を見ているのに。
「とにかくさ! これ以上悩むことないって!」
間中くんが目指すべきなのは「クール系男子」路線。
そこを変える必要は絶対ないはず。
「迷う気持ちもわからなくはないよ? でもさ、今までいい感じだったじゃん」
クール系男子になったことで、間中くんは今モテ期の真っ只中だ。
だから間違っていない。結麻ちゃんだって、きっと間中くんのことを好きになる。「クール系男子が好き」って言ったの、そもそも結麻ちゃんなんだし。
なのに、間中くんはジッと私を見ている。まるで私の本心を探るみたいに。
ドッドッドッて胸の鼓動が速くなる。
苦しい。
でも、ここで私が迷ったり不安そうな顔をしたら絶対にダメだ。
「──わかった」
ようやく、間中くんは口を開いた。
「じゃあ、俺もこれまでどおり頑張る。ふたりでやってきたことだもんな」
間中くんの口が、笑う形になった。
そのとたん、私のなかで何かがパチンと弾けた。
(嫌だ!)
やっぱりこんなのダメだ。こんな頼りなさそうな笑顔で「がんばる」って何かおかしい。
こんなの、私の知ってる間中くんじゃない。
「ごめん……やっぱりやめよう」
気がついたら、勝手に口が動いていた。
「元に戻そう。作戦変更しよう」
「……へっ」
「クール系男子作戦、もうやめよう」
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