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雨の音は、彼の音
幼馴染の彼は、筋金入りの雨男。
お遊戯会も卒園式も雨、入学式も運動会も遠足も修学旅行も卒業式も雨。
中学生になって、それを承知で付き合ったけど、デートのたびにやっぱり雨。
映画館もカラオケも水族館も嫌いじゃないけど、私はもう、晴れた空が見たくなった。
違う高校に進学するのを機に、私たちは別れた。
おかげで、行事のたびに雨が降ることはなくなった。
外で友達と写真が撮れるのは、素直に嬉しい。
でも、少しだけ物足りない。
隣に彼がいないから。
雨が降ると「ああ、あいつがまた何かしてるのかな」なんてつい考える。
もう別れたのに。
私からさよならしたのに。
思えば、もう少し大人になるまで待てば良かった。
二人で飛行機に乗って、雲の上まで出られるくらい。
砂漠に行って、雨が降るのか試せるくらい。
私たちは少し近すぎて、急ぎすぎた。
雨の日は彼を思う。
彼の声。彼の仕草。彼の気配。
嫌いじゃ、なかったのに。
窓の外。やさしくて清かな水の音がする。
――私にとって、雨の音は、彼の音。
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