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夢を見た。
『この選択は正解だったと思う?』
と、あなたは言った。
「正解かどうかなんて、そこには意味がない。けれどこんなわたしにも、世界は生まれてきた意味を用意しておいてくれたんだね」
『押し込まれた、闇色の感情はどこへ行くの?』
そう言ってあなたは小さく笑った。
「あなたは誰?」と訊いたら、
『わたしはあなた』と言った。
夢を見ていた。
※
※
病院の長い廊下は警備員に挟まれて歩く。
病院と云っても、ここは所謂、矯正施設という所だ。なので、警備員は腰の警棒に必ず手を添えているという態勢だ。
窓はスチール製のピラーが等間隔に続き、ガラスは天井まで強化ガラスが嵌め込まれている。外に続く景色は、綺麗に造り込まれた庭園の先に、山深さを容易に連想させる、鬱蒼とした木々の群れが立ちはだかっていた。
居室棟に続く廊下が始まると、そこから緩やかに下っているのが分かる。白い床、白い壁、白いアーチ状の天井がただただ続いている。沈黙と静寂が支配する閉鎖的で汎溢な空間は、何処となく母の胎内を連想させた。
建物の造形は非常に好ましい。そこを通ること自体は何の杞憂もないけれど、義務化されたカウンセリングに通うことだけは、行き帰りの移動する運動を含めて、ただの退屈な散歩と同じだった。
「伽耶」
ふいにモニターからわたしを呼ぶ声がする。
わたしは急いで扉の前に立つ。忌々しく、耳障りな電子ロックの微細な作動音がして、それは開かれた。
「ハルカ」
差し出したわたしの両手を、躊躇なく握りしめる親友。
「伽耶、ご機嫌は?」
「ハルカこそ、ご機嫌は?」
「うふふ、分かってるくせに。明日からまた、鬱屈として陰鬱な感情が溢れかえる日々が始まるんだよ」
「素敵だね、詩的な表現。大丈夫、怖くはないよ。私の手を離さないで」
この狭隘で深淵なる暫定的な世界を、私は結構気に入っている。
厳しく制限された面会時間が過ぎて、ハルカが帰ってしまっても気持ちは高揚していた。そして、ハルカは休暇が終わり明日から新学期が始まる。きっとまた、会いに来てくれるだろう。それを思うと、今日は無意味なカウンセリングさえも、晴れやかな気分で受けることが出来そうだ。
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