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17ー2 もう少し時間が与えられたなら
治療院など貧しい人々のために尽くしたライナス先生だったが、彼の死を悼むために集まった人々の数は少なかった。
フェブリウス伯爵領から来たマックス様と治療院のスタッフたちが数名。
それにカイルさんと数人のオーキッド子爵領に住んでいる彼の患者たち。
本当なら、こんな寂しい葬式になるような人じゃない。
なのにこんなことになった理由は、『教団』とは関係なく町の教会で葬式を行ったため。
それとわたしのせいだった。
最後まで婚約者としてすら認められることがなかったわたしだったが、ライナス先生は、わたしの立場を明確にするために教会でわたしと婚姻の儀を行ったのだ。
女神から見捨てられた者たちを救うために創設された教会は、本来なら夫婦にはなれない筈のわたしたちを結びつけてくれた。
それは、ライナス先生の死の一週間前のことだった。
立会人もラーズさんとマックス様の二人だけというごく簡単な式だった。
決してこの国での法的にも認められることのない結婚だ。
それでもわたしたちは、幸せだった。
その婚儀の夜。
わたしとライナス先生は、一緒のベッドで眠った。
といっても何ということもなかった。
ライナス先生は、思っていた異常にロマンティストで紳士なのだ。
わたしたちは、ただ同じ寝所で横になっただけだ。
それでも、なんだか眠れなくって。
わたしとライナス先生は、一晩中、物語をしていた。
先生は、わたしのもといた世界の話をきいて一度行ってみたかったと言ってた。
確かに、医者の立場からすれば、あの世界に興味がわくのも当然だろうな。
特にライナス先生が驚いていたのは、わたしがいた国、日本の国民がみなほぼ平等に医療を享受できているということだった。
「国民皆保険、か。夢のような話だな。貧しい者も富める者もみな等しく医療が受けられるなんて」
「いや、完全に平等というわけじゃないけどな」
「それでも医療が受けられずに苦しむ者は、この世界よりは少ないんだろう?」
ライナス先生は、夢見るように言ったんだよ。
「私にもう少し時間が与えられたなら、そんな世界をつくってみたかったんだが」
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