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【 プロローグ 】
「あ、あの…、これ落としました」
幼い女性の声に気付き振り向くと、目の前には栗色の髪をしたまだお化粧もしていない少女の姿があった。
なぜか目を閉じて、僕に落とした物を両手で差し出している。
視線をそちらへやると、見覚えのあるブラウンの皮ケースに入ったスマホが見えた。
慌ててズボンの後ろポケットをパンパンと2度、叩くように手をやる。
「あっ、これ、僕のだね。ポケットから落ちちゃったかな。拾ってくれてありがとう……」
「いいえ、どう致しまして」
その少女はそう言いながら、ゆっくりとオレンジ色の瞳を開いた。
七月のやさしい浜風が、彼女の短い髪とパステルピンクのスカートをふわりと揺らす。
土曜日の夕方、久しぶりに来たこの海が見える小さな公園で、一瞬時が止まったような気がした。
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