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【 タピオカ入りイタリアンソーダ 】
海から上がると、砂浜を二人並んで歩いた。
「濡れちゃったから、少しここで乾かそうか」
「はい」
彼女はとても素直だ。僕が砂浜に座ると、ちょこんと僕の真横、肩が触れるほど近くで座る。
この光景は他人が見たら、完全にカップルだ。
「夏ちゃん、喉渇いたよね。ちょっと待ってて、そこで何か飲み物買ってくるから」
「あっ、ありがとうございます」
僕は公園に来ていたドリンクの移動販売車で、定番のクリームソーダと彼女が好きそうなタピオカ入りイタリアンソーダを買った。
「お待たせ~。夏ちゃんはタピオカ入りイタリアンソーダがいいかな?」
「えっ? きゃっ!」
僕がそのタピオカドリンクを差し出すと、急に両手で顔を塞ぎ下を向いた。
「えっ? クリームソーダの方が良かったかな?」
彼女は両手で顔を覆ったまま頷いた。
「じゃあ、クリームソーダの方ね」
そう言って、クリームソーダを差し出すと、彼女は左手で目を覆ったまま、右手でそれを受け取る。
「てっきり、タピオカドリンクの方を選ぶかと思ってた。意外だね」
すると、目を瞑ったままクリームソーダを一口飲むと、彼女はこんなことを口にした。
「私、タピオカがダメなんです……」
それがどういうことなのか、この時になっても僕は理解ができていなかった。
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