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【 約束 】
「夏ちゃん、大丈夫だよ。僕は医学生だ。治療法はあるはずだから、一緒に克服して行こう」
「う、うん。ありがとう、光さん……」
――それから、僕たちは毎週休みになると、この公園でふたりで会った。
目的は2つ。
一つは、トライポフォビアの克服。
そして、もう一つは、夏ちゃんにただ会いたいからだ。
大学の先生に聞いたところ、このトライポフォビアを克服するには、『エクスポージャー療法』(暴露療法)が効果的だとのことで、この方法を会う度にふたりで試して行った。
初めは数の少ないものから、徐々に数を増やして行く地道な方法。
「これは大丈夫?」
「少しゾワゾワするけど、大丈夫」
「じゃあ、これは?」
「きゃっ! ダメかも……」
どうやら3つ以上同じものが集まると反応するらしい。でも、その大丈夫な境界線は徐々に広がってゆく。
3つから4つ、4つから5つ。そして、6つ、7つと……。
彼女の心理的不安を取り除くには、どうしたらいいか。
ベンチに座り怖がる彼女の肩を、横からポンポンと軽く叩くように抱いてみる。
すると、彼女は僕の胸の中にゆっくりと身を委ねた。
「こうしてると、大丈夫みたい」
そう彼女は言った。
その言葉に思わず僕も彼女をやさしく抱き寄せた。
「この公園の近くである8月20日の花火大会、夏ちゃんと一緒に見れるかな?」
「えっ? 花火大会?」
「うん。花火も苦手だっけ?」
「う、うん。そうだけど、光さんと一緒にこうして見てみたい」
僕の胸の中で頬を赤らめた彼女は、恥ずかしそうに口元に手をやりながら僕に甘えてみせた。
「じゃあ、約束だよ」
「うん……」
彼女はポロリと一粒涙を零しながら、まるで夏のひまわりのように、やさしく微笑んだ。
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