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【 涙のわけ 】
『バタン』
車で彼女を家まで送ると、来週の約束をして別れた。
「光さん、ありがとう」
「じゃあ、また来週ね」
「うん、またね。光さん……」
そう言って笑った彼女の瞳には、なぜか涙が浮かんで見えた。
彼女は、玄関先まで走って行くと、くるりと振り返り、胸の前で小さく手を振って笑った。
彼女の涙のわけ……。
「またね」
――でも、その約束は果たされることはなかった。
彼女はあれから二週間、この公園に姿を見せていない。
一体何があったのか――。
その理由が知りたくて、今、僕は彼女の家の前にいる。勇気を出して、呼び鈴を鳴らしてみた。
『ピンポーン』
「はい」
インターホン越しに聞こえてくる声は、彼女の母親だろうか。
「あっ、あの僕、芦田 光といいます。夏ちゃん、あっ、夏さんはいらっしゃいますでしょうか」
僕が彼女のことを聞くと、その女性は少し言葉を詰まらせるように言う。
「夏のお友達の方ですか? 夏は1年ほど前に亡くなりました……」
「えっ!? そ、そんなはずは……」
「申し訳ありませんが、思い出したくないので、お引き取り下さい……。ううっ……。ガチャッ」
「あ、あの……」
衝撃だった。とても信じられなかった。
僕がずっと会っていた彼女は、全て幻だったと言うのか。
だから、僕は調べた。彼女のことを。
すると、夏ちゃんは1年ほど前に、僕の通っている港大学附属病院で亡くなっていたことを知った。
夏ちゃんを看取った先生によると、蜂に刺されたことによる蜂毒の影響で、アナフィラキシーショックにより呼吸困難に陥り、亡くなったという。
夏ちゃんが『トライポフォビア』になった理由。
それは、これが原因だ……。
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