【 もう一度 】

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【 もう一度 】

「あ、あの…、これ落としました」  幼い女性の声に気付き顔を上げると、目の前には栗色の髪をしたまだお化粧もしていない浴衣姿の少女が立っていた。  なぜか目を閉じて、僕に落とした物を両手で差し出している。  視線をそちらへやると、見覚えのあるブラウンの皮ケースに入ったスマホが見えた。 「ポケットからまた落ちちゃったかな。拾ってくれてありがとう。夏ちゃん……」  僕は立ち上がると、思わず彼女を強く抱きしめた。 「会いたかった。会いたかったよ、夏ちゃん……」  人目を(はばか)らず泣いた。自分が年上なんて忘れるくらいに。 「あっ、ひ、光さんですか? お姉ちゃんからの手紙で今日、ここへ来たんですけど、いきなりハグはちょっと……」  胸の中にいる夏ちゃんが妙なことを言う。 「えっ……?」  少し体を離し、彼女の顔を確認する。  白い小さなお花の髪飾りを付けた栗色のショートヘア―に、ほんのりピンク色に染まったかわいい頬。  そして、澄んだブラウンの潤いのある瞳。  間違いない。夏ちゃんだ。 「君は夏ちゃんだろ?」 「あっ、私、姉の夏の妹の小夏(こなつ)です。私たち双子だから、似てるかも……」 「えっ?」  彼女は手に持っている手帳を見せてくれる。  それは、夏ちゃんがベンチで書いていた手帳だ。 「少し前に夢を見て、夏姉(なつねぇ)ちゃんがこの手帳の通りに、8月20日にこの公園の三つ目の真ん中のベンチに座っている人にスマホを渡して欲しいって。この手帳に詳しく光さんのことが書かれていて、それで今日浴衣で公園に行って欲しいって……」 「こ、この手帳に?」 「はい」  あの時、夏ちゃんは僕のことを書いていたんだ。
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