32人が本棚に入れています
本棚に追加
【 不思議な少女 】
『ポツン……』
彼女が手渡そうとした僕のスマホの上に、一粒の水滴が落ちた。
急に辺りが色彩を無くし、灰色に暗くなる。
『ポツポツポツ……』
その水滴は、二粒、三粒と増えてゆく。
「ありがとう。あっ、雨が降って来ちゃったね」
「そうみたいですね」
僕は彼女からスマホを受け取ると、落ちた水滴を拭い、ズボンの後ろポケットへ仕舞った。
僕らが立っている淡い赤茶色のレンガも、空から降ってくる雨のせいで、水玉の形に徐々にその色を濃くしていく。
すると彼女は、ピクリと体を反応させて、なぜか慌てた様子でまた目を閉じた。
「あっ、私、そろそろ行きます……」
「あっ、拾ってくれてありがとう」
僕に深々と会釈をしてから、彼女はまるで徒競走をしているかのように、すごい勢いで走り去っていった。
その走り去る時にチラリと覗いたその不思議な少女の姿が、僕の脳の奥になぜか刻まれた気がする。
彼女の瞳を閉じた表情。それはどこか辛そうな表情に見えた。
何かを避けるような。何かから逃げるような……。
最初のコメントを投稿しよう!