【 不思議な少女 】

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【 不思議な少女 】

『ポツン……』  彼女が手渡そうとした僕のスマホの上に、一粒の水滴が落ちた。  急に辺りが色彩を無くし、灰色に暗くなる。 『ポツポツポツ……』  その水滴は、二粒、三粒と増えてゆく。 「ありがとう。あっ、雨が降って来ちゃったね」 「そうみたいですね」  僕は彼女からスマホを受け取ると、落ちた水滴を拭い、ズボンの後ろポケットへ仕舞った。  僕らが立っている淡い赤茶色のレンガも、空から降ってくる雨のせいで、水玉の形に徐々にその色を濃くしていく。  すると彼女は、ピクリと体を反応させて、なぜか慌てた様子でまた目を閉じた。 「あっ、私、そろそろ行きます……」 「あっ、拾ってくれてありがとう」  僕に深々と会釈をしてから、彼女はまるで徒競走をしているかのように、すごい勢いで走り去っていった。  その走り去る時にチラリと覗いたその不思議な少女の姿が、僕の脳の奥になぜか刻まれた気がする。  彼女の瞳を閉じた表情。それはどこか辛そうな表情に見えた。  何かを避けるような。何かから逃げるような……。
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