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【 知らない人 】
雨が酷くなり、土砂降りとなってきたため、僕も慌てて公園の駐車場へ急いだ。
遊歩道を走り駐車場手前の自転車置き場をふと見ると、先ほどの少女が空を見上げながら雨宿りをしている。
突然の雨に傘を持っていないようだ。不安そうな顔でこの雨空を見つめている。
その時、一瞬、僕と目が合った。思わず僕は、彼女の方へ駆け出していた。
「ふーっ、すごい雨だね。君、傘持ってないの?」
パンパンと服に付いた雨粒を払いながら、彼女の雨宿りしている自転車置き場の屋根に入った。
「はい、まさか今日、雨降るなんて思わなかったから……」
ふと彼女の方を見ると、自分の胸が少しトクンと波打つのが分かった。
真横で見た彼女のブラウンの瞳は、とても澄んでいて綺麗だ。まだ、潤いのある純粋な少女の瞳をしている。
「君、家どこなの?」
「ここから歩いて30分くらいしたところです」
「ちょっと距離があるね。家まで車で送って行こうか?」
咄嗟にそんな言葉が出てしまった。
「あっ、でも、知らない人の車には乗っちゃダメって学校で言われているので……」
「あはは、君は真面目な子なんだね。でも、大丈夫」
「えっ?」
「だって、さっき1回会ったから、知らない人じゃないよね。雨もこの調子だと、当分止みそうもないから、家まで送って行くよ」
「で、でも、何か申し訳ないです……」
「あはは、気にしないで。僕は怪しい人じゃないから。それに、さっきスマホ拾ってもらったお礼もしたいしね」
僕がそう笑って答えると、彼女も初めて小さくニコリと笑ってくれた。
その両頬のピンク色に膨らんだ笑顔が、この時とても素敵に見えた。
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