1人が本棚に入れています
本棚に追加
『君のことが好きだ!付き合ってくれ!。』
……はあ、とた溜め息が出そうになるのをきゅ、
と我慢して飲み込む。
今し方、サッカー部のキャプテンであるクラスメイトから
言われたセリフ。
なんて捻りの無い告白なのだろうか。殆聞いて呆れる。
直球が好きだなんて言う物好きも居るけれど、
此れじゃあ唯、文才が無いだけじゃ無いか。
ぞっとする。
只の脳筋の才能の無さにも、
興味の無い人から向けられた悍しい好意にも、
其れでも冷めたままで居る自分にも。
先は何もしなくとも汗が滲み出る程暑かった教室は、
壊れているはずのクーラーが動き出したかと
勘違いしそうになる程、
ただ、冷たく、重く、乾いた空気に覆われていた。
息が詰まりそうだ。
時間が止まっている様で、今にも泣き出したい衝動に駆られる。
何か、何か言わなければ。
涙目になった自分を悟られないよう必死に取り繕って口を開く。
「有り難う、でも御免なさい。
だって……、貴方、太陽の様なんだもの。
私には似合わないわ。私よりも他に屹度、良い人が居るはずよ。」
そう言って、立ち去った。
否、立ち去るしか無かった。
彼が女子から人気があることは前々から知っていたし、
今も、廊下から突き刺さる視線が痛い。
何も、そんな心配することはないと言うのに。
急度、数日経てば、今日の事など何も無かったかの様に、
新たな恋人ができているに違いない。
嗚呼、青春、素晴らしきかな。
…彼の事はなんとも思っていないし、
興味も未練もないのだけれど、
ひとつ思うことがある。
彼は、私が放った皮肉に気付いてくれただろうか。
気づいてくれたならば、屹度幸せ。
最初のコメントを投稿しよう!