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「ーーーーーーまたかーー」
それは今日も変わらない。
暑さのせいもあって、酷い寝汗をかいて起きた俺は、夢の中の愛に触れようと、気づけばベットの上で手を伸ばしていた。
俺はベットから体を起こし、ため息をついた。
愛が消えてもう10年。
俺はいつまで、この夢を見るんだろう。
シャワー浴びてから、着替えて仕事へ向かう。
関さんが子どもの授業参観に出席する為、俺は今日は珍しく、9時から夕方までの勤務だ。
いつもは大体昼過ぎからやってきて、夜中の0時近くまで働いている。
関さんのお店に着いた俺はまず先にシャッターを開け、関さんに言われている通りにカフェのメニューの下準備をしてから、店内の花に水やりをする。
鉢植えの植物達も、この暑さのおかげか、生き生きとしている。
「お!マッキー今日店番か!!!」
自転車で通りかかった嶋宮さんが、俺を見て声をかけてくれた。
嶋宮さんはいつも、夜お店に来てくれる。
奥さんとはかなり前に離婚していて、自分は仕事が終わったら此処に飲みに来て、たまにはキレイなお姉ちゃんのいるお店に行って…と、悠々自適な生活をしている。
「今日珍しく、早番で」
俺は鉢植えを一旦よせて、店の前の掃き掃除をしながら答えた。
此処の人達はみんな優しい。
俺の両親の様に固定観念が無く、なんでもあり、の態度で接したり、話を聞いてくれる事が嬉しい。
愛と別れてから2年後、俺は彼女とその子どもを見捨てた自分が、人を助ける研究をする資格なんて無いと思い、大学院を辞めた。
両親は発狂し、俺を勘当した。
だから俺はもう8年ほど、両親には会ってないない。
祖父と祖母には会っているが、いつも両親に隠れて、コソコソ会っている。
だから時々此処のお客さん達が、俺の親代わりになって話を聞いてくれたりする。
嶋宮さんは結局そのまましばらく店で話しており、昼ごはんを食べて行くと言い出し、俺は嶋宮さんに軽食のミックスサンドを出した。
カランカラン…
その時だ。
カウンターで嶋宮さんと話していた俺は、入り口のベルが鳴り顔を上げた。
「いらっしゃいませ」
そう言った俺は、瞬きをしなかった。
彼女は俯いていた顔を上げ、麦わら帽子を右手で触った。
「ままー!涼しい!!!」
元気いっぱいの男の子に微笑んでから彼女は俺の方を見た。
「おーー…綺麗な姉ちゃん……」
嶋宮さんの言葉に、俺は相槌を打てなかった。
10年ぶりに会う彼女は、髪が胸の下まで伸び、柔らかそうな黒髪は変わらずに維持されていた。
彼女と目が合った。
男の子も俺を同時に見上げる。
「柊一…?」
「???…まま、知ってる人?」
目の前に立つのは、10年前のあの日ーーー
俺の前から消えた来島愛だった。
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