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「どうかなーー…
でも、もしかしたら可愛い息子には……
やっぱりそれなりの子をって思うのかも知れない…
ーーー私、家が貧しかったから、学校なんてろくなところ出てないし、大学にも行ってない。
良家の娘さんな訳でも無いし、有名女優でも無いーーー
私が息子と結婚したって、全然メリットない…って思ったんじゃないかな」
「その息子が君を好きなら、俺は別にいいと思うけど」
「でもその息子が、堕ろせって言ったのよ」
愛に言い返され、俺は黙った。
愛の子供の父親が真木柊一かと聞こうと思ったが、俺はそうしなかった。
聞いて仮にそれが真実でも、愛は首を縦には振らない気がした。
「ーーー…別れたの…?…ソイツと」
愛は首を傾げて、少しだけ考える素振りをした。
「どうかな…私子供を堕ろせって言われてーーー
…つい感情的になって、そのままその人のアパート飛び出して来ちゃったから。
ーーーー…ホッとしてるんじゃないかな?
私がーーー居なくなってーーー」
愛に突然涙を浮かべられ、俺は驚いて「ごめんと謝った。
謝った俺を見て「光さんが謝る事ないよ」と愛はスウェットの裾で涙を拭って笑った。
ーーー莉子も、こうだったんだろうか。
俺の頭に、強引かもしれない仮説が浮かんだ。
莉子も同じ様にーーー同じ様にとは言わなくても、似た様に真木に裏切られたんだとしたら?
愛のお腹の子供の父親が、真木だという明確な確証は無い。DNA鑑定をしたわけじゃないし、動かぬ証拠というものは無い。
でも愛の話を聞く限りーーー愛のお腹の子供の父親は真木だ。
俺と同じ歳で、まだ学生だと言う事。
真木と愛が、お揃いのネックレスをつけていて、ネックレスの裏のイニシャルまで一致している事。
あのモテモテの華やかな真木が、彼女を作らず、ずっと「好きな人ならいる」言っていた事。
真木の両親は2人ともテレビにも出演する有名な研究者だ。
研究会のサラブレッドとして生まれた真木が、学生のうちに子供を作って結婚するのを、両親がよく思わないのも納得がいく。
付き合ってる女性がいて、その女性が妊娠して、挙句堕胎を迫ったなんて、世に出たら大変な事になると真木も真木の両親も思っているに違いない。
こういう事が起こった時の為に、真木は彼女ーーー愛と付き合っていたのを、周りに隠していたのでは無いだろうか。
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