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仮に真木が同じように莉子を弄んだのだとしら?
ーーー莉子は真木にとって、愛という女性がいない隙に、ちょっと関係を持っただけの遊びの女だったとしたら?
そんなの告白して振られるより、ずっと辛いに決まってる。
ラブホテルのレシートが出てきた事を考えると、そういう行為に及んだ後に莉子から付き合っているのかはっきりさせる様な事を言われて、そう答えた感じだろうか。
もしそうだとしたらーーー莉子のショックは想像を絶すると思う。
莉子が憧れていた優秀で人気者の真木は、本当は本命の女ですら、自分の都合が悪くなればパッと切り捨てて逃げる、蜥蜴のような狡い男だということなのかも知れない。
誰にでも分け隔て無く接して、何でもできる王子様は、本当は女の血を吸い死に至らしめるーーーー死神だったというわけか。
「ねぇ」
俺は愛に声をかけた。
両手をホットミルクに添えていた愛が「なに?」と顔を上げる。
莉子はストレートヘアを敢えてぱっつんに切り揃えたショートボブだったが、愛の髪は胸の上くらいまでのロングヘアだ。
黒髪のストレートヘアというのは一緒で、髪を伸ばしていたら莉子もこうだっただろうかと俺は考える。
「髪伸ばそうかな」と、莉子は去年の秋くらいからずっとそう話していた。
「……俺と結婚してみない?」
俺がそう言い切って直ぐに、愛は驚いて目を大きくしてから、視線を正した。
「……冗談でしょ……?」
「ううん。本気」
俺ははっきりと、愛の目を見て言い切った。
自分が恐ろしく感じられるほどの一方的な確信はもう止まらなかった。
真木は愛を、今もまだ愛してる。
真木は子供こそ産ませてあげられないと言ったものの、愛を本気で愛してる。
愛がこうやって突然自分の前から行方を暗ますとは思っても無くーーー今この瞬間も真木は愛を探している。
だってあの飲み会の帰り見かけた真木はーーー愛と思われる女性を大層愛おしそうに見つめていた。あんな真木見た事なかった。
それにあのーーーオシャレにこだわりがある真木がわざわざイニシャルを入れて自分とお揃いのネックレスを彼女に買ってーーーそれを肌身離さずつけているなんてーーーもうーーーそうとしか思えないーーーー
真木は愛を探してるーーー
探してーーー自分の元に戻ってきて欲しいと願ってるーーーー
俺の中に芽生えた黒い感情は止まらず、遂には言葉になって愛に牙を剥く。
「……子供が産まれたら……一緒に育てよう。
…絶対その男より幸せにするしーーー
…なんにも心配要らないから」
女性経験なんてほぼ無いくせに、よくこんな歯が浮く様な台詞が出てくるなと、我ながら感心した。
もし本当にーーー真木が莉子を死に追い込んだのならーーー愛を俺の元に置いておく事には充分な意味がある気がした。
愛は呆然として、俺の顔を見つめ返した。
「……本気なの……?
……この子…別の男の子供なのよ…?
…私の両親に子供が出来たから結婚させてくださいなんて言ったら……
……光さん……ぶん殴られちゃうよ…?
…落ち着いてよ…光さん私の事……
…何にも知らないでしょ…?
嘘なら……慰めたくて言ってるなら…
……そんな事言わなくていいからーーーー」
言いかけた愛を抱きしめる。
拒まれるだろうかと思ったが、愛は俺を拒まず、俺の腕の中で黙っていた。
愛の髪から、莉子と同じシャンプーの匂いがする。
真木の行為が莉子の命を奪ったならーーー…俺は真木からこの子をーーー愛を永遠に奪ってやろう。
そう思うとそれはもう俺の中で真実となり、使命感の様にすら感じられた。
俺は真木がまだ、この子ーーーー愛を好きで、彼女を忘れられず、アパートを飛び出した彼女を探していると確信してしまう。
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