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「ありがとうございました!」  店員に頭を下げられた俺は、戸惑いながら自分もほんの少し振り返り小さく頭を下げた。 俺は小さい紙袋を手に持ったまま、頭を下げ続ける店員から逃げる様に店内を後にした。 愛との結婚指輪を買うにあたって俺は大いに迷い、結局どれが良いかを店員に相談したのだが、知らない人と話すのがあまり得意じゃない俺は終始緊張した状態で店員と話す事になってしまった。 普段生活してて、店員とあんなに話す事なんてない。 俺は店員の愛想の良さに戸惑い、おそらくかなり挙動不審になっていた。 なのに店員の男性は最後まで俺の希望や予算を聞いて、俺が場違いな事を言っても笑顔を崩す事なく、愛に渡す指輪を一緒に選んでくれた。 同じ男だというのに、初対面の俺にあんなに愛想よく話しかけられるなんて、尊敬してしまう。 俺は指輪を選んでもらっただけで緊張で全身汗だくになってしまっていたというのに…すごい違いだ。 俺は早足で結婚指輪を買いにきたジュエリーショップの横にある、狭い駐車場に停めたシビックの中に入った。 ジュエリーショップが見えなくなっている事を確認してから、そっと紙袋の中を覗く。 今更、静かに込み上げてくる達成感。 購入する時は緊張で、達成感どころじゃなかった。 愛は、喜ぶだろうか。 渡したら、最初になんと言うだろう。 嬉しいと笑って、また飛びついてくるだろうか。愛は良くそうやって、俺に体をくっつけてくる。 母子手帳を市役所に受け取りに行った時も、それは同じだった。 2人で妊娠中の生活や、子供が産まれてからの生活について助産師の女性から説明を受けた。 その時も愛はまるで本当の夫婦の様に、ちょくちょく俺に話しかけてきた。 「仲が良いんですね」 助産師がそう言うと愛は微笑み「すごく優しいんです」と答えた。 その帰り、愛は市役所から駐車場までの短い道のりで自分から手を繋いできて「ありがと」と俺に告げた。 俺は不思議な事に、愛のお腹の子が実際に真木の子供だとしても、全然構わないと思っていた。 産みの親より、育ての親だと思っているし、何より最初の打算的な自分に反してーーー俺は愛を大切に思い始めていた。 だから愛の血を分けたお腹の子供の事も、誰との間に出来た子供であれ、可愛く思うに違いなかった。 愛といるのがあまりに幸せでーーー俺は時々、自分が真木への復讐の為に愛にプロポーズしたことを忘れてしまいそうになる。 実際ーーー本当に真木が莉子の死に関わっていると決まったわけじゃない。 そんな言い訳みたいな事もーーー最近よく考えてしまう様になっていた。 「ーーーーー…!」 車を数分走らせた時、今日が愛の読んでいるファッション雑誌の発売日だと気づく。 俺は信号のすぐ横にある書店に駐車し、店内に足を踏み入れた。 指輪を買いに来たついでに、雑誌も買っていこうと思った俺は、真っ直ぐファッション雑誌が置かれているであろうコーナーへと向かう。 入口の直ぐ横に設置されている「今週のおすすめ」コーナーを通り過ぎ、ファッション雑誌の所まであと少しの所で足を止めた。
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